◇22 忠誠宣誓
「それではなまえちゃん、今後の君の活躍を期待しているよ。」
なまえは一瞬動きを止めた。
正規にポートマフィアの構成員になった訳ではなかったからだ。
それに気づいた中原は視線を落としたが、太宰はすかさずフォローに入る。
「首領、ご安心を。彼女はとても優秀で」
太宰が流暢に話し始めた矢先、なまえが森の足元に片膝をついた。
突然の行動に目を丸くする森の右手をそっと取り、手の甲に優しく口付ける。
その行為に森は目を細め、口元に緩い弧を描いた。
「私は、勇敢で従順な兵士として、如何なる時も、貴方様の為、身命を賭する用意のあることを誓います。」
◇
「さっきのアレ、なんだい。妬けるね。私にもやっておくれよ。」
「厭ですよ。なんで太宰さんなんかに誓いを立てなきゃならないのです。
それと無駄にくっつかないでください、重いです。」
森の部屋から退出した三人は、再び昇降機に乗り込む。
太宰がなまえに後ろから覆い被さる様にし乍ら、誓いの再現を懇願する。
「それにしても、首領となまえちゃんが昔馴染だったとはね。」
拒絶されているにも関わらず、体勢を変える素振りを見せない太宰を、押し退けつつ答えるなまえ。
「いえ、昔馴染なんて大それたものではなくて、お会いしたのは過去に二度だけです。」
太宰を退けようとしてはみたものの、重さと大きさで無理と判断したのか、なまえは抵抗を諦めた。
「…ねぇ、さっき"私たち"って言っていたけれど」
「ンな事より仕事だ。」
黙っていた中原が口を挟んだところで、エントランス階に到着した。
「私も一緒に行」
「手前は芥川と別の任務だろうが。」
挙手をして任務の同行を主張した太宰だったが、中原の正論によって却下される。
「なんだい、中也は!さっきから私の邪魔ばかり!」
不貞腐れる太宰を無視し続け、中原がなまえを振り返る。
「なまえ、初任務の前に武器庫へ行くぞ。」
なまえは動きが止まり、立ち竦んでいた。
不思議に思った中原が、もう一度なまえを呼ぶと、やっと反応を示した。
不自然極まりないなまえの態度を、中原は「ぼーっとすんな」で済ませたが、太宰は鋭く観察していた。
然し今はまだ触れない。
「私はここで失礼するよ。またね、なまえちゃん。」
にこりと笑った後、太宰は暗い通路へ消えて行った。
なまえは何か言いた気に、太宰の背中を見送った。
◇
首領に助けられたのは"私たち"、つまり複数人。
然し、首領はなまえちゃん以外の者を屹度、認識していない。
首領はなまえちゃん以外の"私たち"を知らないのか?
首領と他の者との接触は無かったと考える。
だが問題はそこではない。
何時、何処で、何故首領となまえちゃんが接触したのか。
接触は二回。
首領のどストライクの年齢で、記憶もはっきり持っている年齢。
十から十二くらいだろうか。
調査によれば彼女は、八つの頃から資産家に養子縁組されている。
…現在は失踪届が出されているが。
それ以前の記録は一切出てこなかった。
恐らくは、資産家が養子に迎える際に、経歴を綺麗にしたのだろう。
綺麗にしたい経歴、親か出身か。後者が有力だろう。
そう考えると、彼女の出身は絞られてくる。
然し何故なのか。
養子縁組を組んだのが資産家ならば、あんぱん一つであれ程迄に恩を感じるだろうか。
妙だ。
この推測には穴がある。
やはりなかなかの退屈凌ぎになりそうだ。
もう少し情報を集めてみるか。
差し当たっては……
「太宰さん。」
「やぁ、芥川くん。丁度良い、少し話をしようか。」
2018.08.26*ruka
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*confeito*