◇22 忠誠宣誓


「それではなまえちゃん、今後の君の活躍を期待しているよ。」

なまえは一瞬動きを止めた。
正規にポートマフィアの構成員になった訳ではなかったからだ。
それに気づいた中原は視線を落としたが、太宰はすかさずフォローに入る。

「首領、ご安心を。彼女はとても優秀で」

太宰が流暢に話し始めた矢先、なまえが森の足元に片膝をついた。
突然の行動に目を丸くする森の右手をそっと取り、手の甲に優しく口付ける。
その行為に森は目を細め、口元に緩い弧を描いた。

「私は、勇敢で従順な兵士として、如何なる時も、貴方様の為、身命を賭する用意のあることを誓います。」



「さっきのアレ、なんだい。妬けるね。私にもやっておくれよ。」

「厭ですよ。なんで太宰さんなんかに誓いを立てなきゃならないのです。
それと無駄にくっつかないでください、重いです。」

森の部屋から退出した三人は、再び昇降機に乗り込む。
太宰がなまえに後ろから覆い被さる様にし乍ら、誓いの再現を懇願する。

「それにしても、首領となまえちゃんが昔馴染だったとはね。」

拒絶されているにも関わらず、体勢を変える素振りを見せない太宰を、押し退けつつ答えるなまえ。

「いえ、昔馴染なんて大それたものではなくて、お会いしたのは過去に二度だけです。」

太宰を退けようとしてはみたものの、重さと大きさで無理と判断したのか、なまえは抵抗を諦めた。

「…ねぇ、さっき"私たち"って言っていたけれど」

「ンな事より仕事だ。」

黙っていた中原が口を挟んだところで、エントランス階に到着した。

「私も一緒に行」

「手前は芥川と別の任務だろうが。」

挙手をして任務の同行を主張した太宰だったが、中原の正論によって却下される。

「なんだい、中也は!さっきから私の邪魔ばかり!」

不貞腐れる太宰を無視し続け、中原がなまえを振り返る。

「なまえ、初任務の前に武器庫へ行くぞ。」

なまえは動きが止まり、立ち竦んでいた。

不思議に思った中原が、もう一度なまえを呼ぶと、やっと反応を示した。
不自然極まりないなまえの態度を、中原は「ぼーっとすんな」で済ませたが、太宰は鋭く観察していた。
然し今はまだ触れない。

「私はここで失礼するよ。またね、なまえちゃん。」

にこりと笑った後、太宰は暗い通路へ消えて行った。
なまえは何か言いた気に、太宰の背中を見送った。



首領に助けられたのは"私たち"、つまり複数人。
然し、首領はなまえちゃん以外の者を屹度、認識していない。
首領はなまえちゃん以外の"私たち"を知らないのか?
首領と他の者との接触は無かったと考える。

だが問題はそこではない。

何時、何処で、何故首領となまえちゃんが接触したのか。
接触は二回。
首領のどストライクの年齢で、記憶もはっきり持っている年齢。
十から十二くらいだろうか。
調査によれば彼女は、八つの頃から資産家に養子縁組されている。
…現在は失踪届が出されているが。
それ以前の記録は一切出てこなかった。
恐らくは、資産家が養子に迎える際に、経歴を綺麗にしたのだろう。
綺麗にしたい経歴、親か出身か。後者が有力だろう。
そう考えると、彼女の出身は絞られてくる。

然し何故なのか。
養子縁組を組んだのが資産家ならば、あんぱん一つであれ程迄に恩を感じるだろうか。
妙だ。
この推測には穴がある。
やはりなかなかの退屈凌ぎになりそうだ。
もう少し情報を集めてみるか。
差し当たっては……

「太宰さん。」

「やぁ、芥川くん。丁度良い、少し話をしようか。」


2018.08.26*ruka



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*confeito*