◇24 誰ガ為


「なまえ、入るぞ。」

入り口から聞こえる声に肩を震わせる男。なまえは至って平静だった。

「な…なんで、中原さんが?!」

「手前こそなんで此処に居る。つーか、誰だ。所属は。」

腕を組み、男に捲し立てる中原は、強烈な威圧感を放っていた。
男は恐れをなし、慌てて背広を拾い部屋を出て行った。
其れを見送った中原は、盛大な溜め息を吐き、なまえを見る。寝台に寝転がった儘、天井を見つめていた。

「手前を助けるのは、此れで何度目だ。」

中原は言い乍ら寝台に腰掛ける。
すると漸くなまえが起き上がり、中原を見た。

「助けてなんて言ってないよ。それに」

言葉を区切ると一度伸びをして、中原の隣に腰掛け斜め下から中原を覗き込む。

「中也が助けてるのは私でなくて、"仲間の構成員"の方でしょう。」

口元だけで微笑むなまえの表情は冷たかった。中原は答えない。
確かに中原が止めに入らなければ、あの男はなまえに口付けをして、なまえの異能によって殺されていたかもしれないからだ。
なまえの異能を知っているのは極一部。
知っていると知らないとでは天と地の差があった。何も知らない一般構成員は、圧倒的に不利なのだ。

だからこそなまえの情報源としての対象になっていた。
なまえは森に挨拶をしたその日から毎晩、こうして構成員を誘惑しては部屋へ招き入れ、情報を聞き出していた。
然し、毎日何かしらの理由を付けて中原が部屋を訪れ、邪魔をする。
その甲斐あってか、この件による構成員の死亡者は一人も出ていなかった。

なまえは立ち上がり、冷蔵庫から水を取り出す。喉を鳴らし何口か飲んだ後、中原を横目で見遣る。

「で、今日は何しに来たの。」

また貞操観念についての説教かと、付け加える。中原は再び溜め息を吐く。

「適当な物件見つけてやるから、此処を出ろ。」

明日には候補物件の資料を持って来てくれるという、何とも面倒見の良い上司である。
確かに仮眠室に何時までも居候する訳にもいかないか、となまえも了承した。

「それと、もう男誑かすの止めろ。」

「…別に、殺す気は無いから安心してよ。」

異能の程度は調節が出来る。気絶するくらいの毒ならば問題ないでしょう、となまえは訴えるも、中原は首を横に振った。

「さっき、俺が助けてるのは"仲間の構成員"だって言ったな。」

中原は立ち上がり、なまえに近付く。向き合う形になると、なまえの頭にぽんと手を置いた。

「なまえも今は俺の部下だ。手前の事も守らせろよ。」

そう言うと、中原は部屋を出て行った。なまえは何も言わずに視線で追う。
もう見えなくなった背中にぽつりと呟いた。

「守ってなんて、言ってない…」


2018.09.03*ruka



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*confeito*