◆33 胡蝶の夢
色とりどりのネオンが揺れる、華やかな繁華街から少し離れた裏路地を、更に奥へ進むと見慣れた看板が控え目に迎えてくれる。
話し合いの結果、私の提案を聞き入れてくれた上司二人を置いて、一人マレブランケの会議へ参加する事になった。
右耳には小型のインカム、上着の襟裏には集音機、衣嚢にはGPSを仕込まれて。
『なまえちゃん、聞こえる?』
早速、インカムから太宰の声が聞こえてきた。
どちらがインカムで私に指示を出すか、揉めに揉めた結果、結局中也が太宰に言いくるめられていた。
GPSでバーについた事が解ったんだろう。危うく舌打ちをしそうになったが、堪えて返事をする。
「はい、聞こえます。バーに到着しました。」
正直、全ての機器を外してしまいたかった。この会議に参加するマレブランケの面子は、マレブランケどうこう以前に、貧民街からの仲間だからだ。
私はマレブランケでは最年少。貧民街に居た頃は、皆兄や姉のように私を可愛がってくれた。その仲間を欺くというのは、恩を仇で返す様で胸が痛んだ。
『なまえちゃん、解っているとは思うけれど、君は"ポートマフィア"として潜入捜査に行ったに過ぎない。
不用意に此方の情報を漏らしたり、今後の作戦に支障をきたす様な言動、行動は慎んでくれ給え。』
私の心情を見透かしているかの様に、太宰が釘を刺す。
『反旗を翻すなんて事は、努努思わないように。
…私にとっても、辛い選択をしなければならなくなるからね。』
"辛い選択"と口では言っているが、声がやけに楽しそうで、私はとても不愉快だった。返事をしないのも不自然と思い適当に返した。
クローズの札がドアノブにかけられている扉を押すと、キィと音を立てる。
店内には既に数名のマレブランケの面子が、バーカウンター内にはアリキーノが居た。扉の開閉で私に気づいたアリキーノが微笑む。
「愛しのカルカブリーナ、よく来たね。」
心臓にナイフでも突き刺さっているのではないかと思うくらい痛かった。
『愛しの…?その辺の説明は受けていないのだけれど、なまえちゃん。』
太宰の声が食い気味に聞こえてきた。
無論、インカムは見えないように髪で隠している為、此処で私が返事をしなくても問題はない。重要な指示以外は基本無視を決め込んだ。
「モスコでいいよな。」
私が頷くと、アリキーノが慣れた手つきでカクテルを準備する。其れをなんとなく眺め乍らカウンターに座る。
モスコミュールにライムを添えるのが通常メニュー。アリキーノは私には特別にさくらんぼも入れてくれる。差し出された酒杯を受け取り、お礼を言って一口飲むと炭酸が刺激的に喉を潤した。
「珍しいじゃないか、会議嫌いのお前が会議に出たいだなんて。」
『君、会議嫌いなの。』
「一寸…確認したい事があって。変な噂を聞いたから。」
太宰煩いな、インカム外してしまおうか。
「変な、噂?」
アリキーノは自分の分の酒杯も用意し掲げたので、私も酒杯を掲げ、軽く当てる。
透き通った硝子の接触音、また一口ゆっくりとアルコールを喉へ流す。
「最近、マレブランケで……ポートマフィアの密輸船襲った?」
私の一言で、店内が波を打ったように静まり返る。場の空気が明らかに変わった。
「…何処で聞いた、其の噂。」
アリキーノが酒杯の中で回る氷を見つめ乍ら私に問う。そんな態度を取られると、勝手に心拍数が上昇してしまう。
嫌だ
何かあったんだ
嫌だ
私が離れてから
嫌だ……
マレブランケが知らないものになってしまう
『"ポートマフィア構成員から聞いた"で、いいよ。』
インカムから聞こえる太宰の声が不思議と私を落ち着かせた。
アリキーノの顔は見れなくて、酒杯に沈むさくらんぼを見つめ、太宰に言われた通りに答えた。
「嘘だと言ってくれ、カルカブリーナ。お前を傷付けたくない。」
「傷付けるって何、ど、ゆう……こと…」
急に力が入らなくなった。頭がクラクラする、目の前が…白く、なっていく…
『なまえちゃん、如何したのなまえちゃん!』
太宰が私を呼んでいる様な、そんな夢を見ている様な。何処からが夢なのか、全部が夢だったらいい。
そして私は意識を手放した。
2018.12.22*ruka
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*confeito*