◇46 Humpty Dumpty
「なまえ…これは自己治癒力が高いでは説明つかねぇだろ。」
昨日の今日で治るような傷ではなかった。
仮に驚異的な自己治癒力があったとして、傷が塞がるとしても、多少の傷痕は残る筈。
それすらなかった。
傷なんて、最初から無かったかの様に。
「何れは…バレるとは思っていたけれど。」
なまえは、自分に巻かれた包帯を全て解いた。
首の痣だけは薄く残っていたが、両手首の傷は綺麗さっぱり消えていた。
「私は外傷を受けたとしても、生きてさえいれば、人の何倍もの速さで治癒できるの。」
痣の様な内出血系は少し時間が掛かるけれど、と首に触れ乍ら付け加えた。
「其れは…異能力って事か。」
静かに頷くなまえ。未だ自分でも全容は知れていないと言いつつ、中原に説明を始めた。
受けた外傷は人の何倍もの速さで回復し、毒薬の類を内服したとしても死に至る事はなく、分解する事が出来るという。
「勿論、不死身という訳ではないし、回復するまでは当然、痛みや苦しみも伴うの。」
そして、其の治癒の異能力は、自分に限定されたものではないという。
「他者にも使えるって事か…」
「そう。"私は"全部を試した訳ではないから、明言は出来ないけれど。」
中原は考える。
他者にも治癒の異能力が使えるというが、なまえは別に患部に触れたり、ソレらしく回復呪文を唱えた訳でもない。
一つの仮説が色濃くチラつき、中原は間違いであってほしいと願い乍らも問い掛けた。
「他者への異能発動媒体は…手前の血液、か。」
なまえが問いに頷くより早く、中原は今後の事を考える。
まず最初に至ったのは、"彼奴"にだけは知られてはならないという事。
知られたら、どんな使い方をされるか解らない。
「………もう、遅いか。」
中原がぽつりと呟き、下唇を噛んだ。
太宰が去り際に態々治療するように言ったのは、既に気づいているからだろう。
どこまで知っているかは不明だったが、己が太宰に告げたなまえの擦り傷の件が引き金になってしまったのではないかと、罪悪感が芽生えていた。
「中也、彼の人には気づかれてしまうだろうとは、思っていたことだから…」
中原の表情を見て、なまえが眉を下げて微笑んだ。なまえは手を伸ばすと、中原の頬を包む。
「中也はマフィアなのに優しいんだね。仮の部下である私の心配なんてして。」
「別に、優しかねぇよ。俺がしたいことしてるだけだ。」
頬に添えられた、少し冷たいなまえの手に、中原は自分の手を重ねる。
「それでも、ありがとう。もっと早く中也に出会えていたら…若しかしたら」
なまえはそこで言葉を飲み込み、手を離そうとした。然し、中原がなまえの手を掴み、其の儘抱き寄せる。
「莫ァ迦、んなモンに早いも遅いもあってたまるかよ。」
なまえの頭を一撫ですると、中原はできるだけ優しい声色で言った。
漠然とした不安ともどかしさが伝わらないように。
2019.12.14*ruka
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*confeito*