◆ 9 reunite


「やあ、来たね。思ったより早かったなあ。」

指定の建物の壁に寄り掛かり、腕組みをした包帯の男がなまえに話し掛ける。
なまえは包帯の男、太宰の発した一言が気に入らない様子であったが、無表情で答えた。

「…此処が、最適の環境なのですか。」

太宰が腕組みを解き、背にしていた建物の入り口に近づく。
なまえは其れを目で追い乍ら返事を待った。

「いやいや、君に一応紹介しておこうと思ってね。
なんて事はない、唯の帽子掛けだけれど。」

太宰は其処まで言うと、体をくるっと反転させなまえを見つめた。
”帽子掛け”に疑問符を浮かべているなまえは、不意打ちを食らった様に肩をびくりと跳ね上げた。

「彼はなまえちゃんにとって重要な人だよ。」

思ってもみない言葉に、更に頭上に疑問符を浮かべるなまえが言葉を返すより早く、太宰は建物の中に入って行ってしまった。
腑に落ちないなまえだったが、置いて行かれまいと少し小走りで太宰の後を追った。



「だぁーざぁーいぃぃー!!!」

入るや否や、激しい怒声とコンクリートの塊が太宰を目掛けて飛んで来た。
太宰は避けるでも無く、腹部の中心に其れを真面に受ける。

「へぐぅ」

変な声を出し倒れる太宰。
太宰には目もくれず、塊が飛んで来た方角に視線を向けるなまえ。
敵襲かと思い戦闘態勢をとったが、視線の先で先程の疑問符を解消してくれる人物を捉えた。

「ったく、手前ぇは任務中に居なくなったと思ったら、片付いてから現れやがって!」

「あ、成る程、帽子掛け。」

「あ゛?誰が帽子掛けだ!って、手前…」

其処にはもう一人のポートマフィア”中也”と呼ばれていた、帽子の男が居たのだ。
中也もなまえに気付いたらしく攻撃の手を止める。

「本当に…また会えた」

先までの殺気が嘘かの様に静止してポツリと言葉を零した中也に、倒れて居た筈の太宰がにやにやし乍ら茶化す様に言った。

「随分と嬉しそうだね、中也。愛しの君に会えて。」

太宰の言葉に反応した中也に瞬時にして殺気が戻る。
怒りの籠った足音を立て太宰に近付き胸倉を掴む。
面倒臭そうに、されるが儘、顔を背ける太宰。

「太宰、手前は矢っ張り一度殺さねぇと気が済まねぇ!」

「えー、中也に殺されるくらいなら河馬に圧殺された方がまし。
なまえちゃん、君も見てないで早く助けてよ。」

急に話を振られて、欠伸をしていたなまえは大口を開けた儘、厳しい視線を向ける中也と、危機感のない太宰を交互に見る。

「守る事は、契約に入っておりませんので。」

こほんと小さく咳払いして、さらりと冷たく言い放ったなまえ。
契約という言葉に反応して中也の表情が一段と険しくなった。

「契約って、何の事だよ。」

中也はドスの効いた声色で凄むが、太宰は其の問い掛けには答えず、視線だけで胸倉を離すよう促す。
舌打ちをしつつも手を離した中也との間に空間が出来たのを確認した後、掴まれていた箇所を埃でもはらうかの様に何度が叩き、なまえに視線を向けた。

「なまえちゃんの心配事だけれど、此の男が解決してくれるよ。」

腕組みをし乍ら不機嫌全開の中也が説明しろとばかりになまえを睨みつけるが、なまえにもよく解らずにいた。
次の言葉を待ち瞬きを数回して太宰を見る。

「紹介するよ、彼は中原中也。君に報酬を支払ってくれる人物だ。」

「ッだから、何のだよ!」

我慢しきれず中原が吼える。
自分だけが蚊帳の外の様な感覚が嫌で堪らないといった様子だ。

「あー、煩い。なまえちゃんが私を無事暗殺出来たら、其の報酬を君が払うんだよ中也。」

両手を広げやれやれと言い乍ら、漸く契約内容を明かした。

「此奴が、太宰を…殺す?」

最初はキョトンとした中原だったが、口許を歪ませニヤリと嗤う。

「はッ、そいつぁ結構じゃあねぇか!此の青鯖の息の根止めてくれんなら、幾らだって喜んで払ってやるよ。」

「と、いう訳だよ、なまえちゃん。」

太宰は小声でなまえだけに聞こえる様に「莫迦でしょ」と付け足した。
不安要素であった"依頼人を殺したら誰から報酬を受け取るのか"…其れが解決された瞬間だった。


2018.02.12*ruka



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*confeito*