◆ Don't you need Apple? 参
「…はい?」
うん、正常の反応で良かった。
出勤していきなり食べろって、其れは幾ら何でも。
「最後の一切れだよ。なまえの為にとっておいたんだ。」
此の人、こうやって女の人を落としてるんだろうなぁ。
爽やかな微笑みで、そんな台詞を言われたら…参考にしようとも思ったけれど、僕には出来そうにないな。
「え、何ですか、太宰さん…怖い。」
「えぇ?!非道い!」
なまえさんには効いてないみたいだ。
僕は今日、何度目か分からない苦笑いを浮かべた。
するとなまえさんが小走りで僕に近付いてくる。
嗚呼、此の人は。
「ねぇ、敦くん、何、アレ。」
アレとは太宰さんの事だろう。
僕は何て答えれば良い?
なまえさんが近付いて来てから高鳴り続けている此の心臓が、答えなのだろう。
「…美味しい林檎を、太宰さんが剥いてくれたんです。
なまえさんもどうですか?」
ごめんなさい、でも嘘ではないです。味は美味しかったし。
「林檎に含まれるリンゴポリフェノールには、脂肪の蓄積を抑制する効果があるとも言われているんだよ、なまえ。」
駄目押しと許りに太宰さんが話し掛ける。
女性が興味を持ちそうな効能を持ち出して。
なまえさんも例外ではなく、ピクリと反応した。
其れを見逃さなかった太宰さんは、すかさず最後の一切れを、毒林檎を、なまえさんの目前に差し出した。
おずおずと右手で其れを受け取り、なまえさんがチラリと僕を見ながら「敦くんも食べたなら…」と言う。
少しだけ胸が痛んだ。
小さい口で一口、毒林檎を噛る。
怪訝そうな表情は直ぐに明るくなり、美味しいと微笑んだ。
二口食べたところで動きが止まり、なまえさんの目がとろんとしてきた。
本当に効き目は個人差があるんだなぁ、と案外冷静に状況を捉える僕がいた。
「敦くん。」
ふと太宰さんが僕に話し掛ける。返事をしながら、太宰さんを見る。
「君が、なまえに質問するかい?」
驚いた。
太宰さんの提案にもそうだけれど、太宰さんの表情に。
先程まであんなに無邪気に愉しそうにしていたのに、何故そんな刹那気な表情をしているんだろう。
僕には解らない感情が、太宰さんの中にあるのだろう。
言葉の代わりに一度頷き、視線をなまえさんに移す。
「なまえさん、貴女のフルネームを教えて下さい。」
「…みょうじ なまえです」
「なまえさんのお仕事は。」
「…武装探偵社の事務員をしています」
確り毒林檎が効いている様子に、ホッとして太宰さんを見る。
太宰さんは、なまえさんだけを見ていた。
何だろう、此の感じ。
罪悪感と、あと、何か。
何だか解らないけれど、僕は遂にアノ質問をする決意をした。
一度だけ、大きく深呼吸をした。
「では…なまえさん、気になっている男性はいますか。」
「…います」
ゴクリ。
僕の固唾を飲み込む音が、他の人の耳に届いてない事を祈った。
「其の人は…誰ですか。」
煩わしいくらいに激しく運動を繰り返す心臓の辺りをぎゅっと掴む。
なまえさんの答えは…
「…帽子を被った、赤髪の、ポートマフィアです…名前は」
バンッ
突如として大きな破裂音が響いた。
僕は勿論、太宰さんも驚いた表情で、なまえさんも毒林檎の効果が切れた様子だ。
音のした方を見て原因を探す。
表情が自然と険しくなり、両手を虎化させる。
「駄菓子がなくなったー!」
「…え。」
乱歩さんが叫びながら、空になった駄菓子のビニール袋を放り投げた。
両手両足を伸ばしてジタバタさせている。
如何やら乱歩さんが食べ終わった駄菓子の空袋に空気を入れて、勢い良く潰した事による破裂音だったらしく、両手の虎化を解除した。
「あ、じゃあ、私買ってきますね!」
なまえさんが乱歩さんの叫びに反応して買い出し役をかって出た。
半分残った毒林檎をお皿に戻して乱歩さんに駆け寄る。
乱歩さんが放り投げた駄菓子の空袋を拾いながら、何が食べたいか乱歩さんに問い掛ける。
いくつかなまえさんに駄菓子の種類を指定して「よろしく〜」と乱歩さんはソファに横になった。
なまえさんは慌ただしく来たばかりの探偵社から出て行ってしまった。
僕と太宰さんは顔を見合わせる。
太宰さんの顔には「吐きそう」と書いてある様だった。
「さ・い・あ・く!」
大きな溜め息を吐きながら太宰さんが項垂れる。
僕の心臓もすっかり静かになっていた。
そしてまた、苦笑いを浮かべた。
筈、だった。
「…敦くん、泣きそうだね。」
太宰さんが項垂れながら、横目で僕を見て言い放った言葉に、はっとした。
本当だ、全然笑えてない。
視界が少しボヤけている。
「甘いなぁ、君達は。」
ソファで横になりながら、乱歩さんが発言した。
"君達"とは、僕と太宰さんの事だろう。
「え、乱歩さん…どういう…?」
僕は右手で乱暴に目を擦って、乱歩さんに聞き返す。
太宰さんも乱歩さんに視線を向けていた。
「先ず、敦の聞き方が悪い。
君達が知りたいのはなまえの想い人なんだろう。
"気になっている"ではなく、もっと明確に質問すべきだ。」
そう言われると、確かに太宰さんが質問している時は"好いている"と限定していた。
僕の質問の仕方では曖昧だったのか。
「成る程、ね。乱歩さん、ありがとうございます。
もう少しでなまえの口から聞きたくもない名前が発せられてしまうところでした。」
太宰さんは仰け反り、髪を片手で掻き上げて、ははっと笑いながら言った。
帽子、赤髪、ポートマフィアで想像される人物と言えば、太宰さんが毛嫌いしている中原さんだろう。
「まだ半分、林檎は残っているよ。
敦くん、なまえが戻ったらもう一度試してみるかい?」
「僕は…」
僕は即答出来なかった。
毒林檎でなまえさんの気持ちを聞き出すなんて、矢っ張り嫌だ。
「僕、なまえさんの買い出し手伝ってきます!」
正直に気持ちを打ち明けて、直接なまえさんから聞きたい。
毒林檎なんて、要らない。
例え其の結果が、望むものと違うとしても。
僕は探偵社を飛び出した。
◇
「ねぇー、太宰ー。」
乱歩さんがソファに寝転がった侭、私に話し掛ける。
私は敦くんが出て行った扉から、乱歩さんに視線を移し返事をした。
「太宰は知ってるんだろう、なまえの気持ちなんて。」
副音声で「敦が可哀想だ」と聞こえてきた気がした。
乱歩さんはそういった類の言葉は滅多に発言しないが。
確かに、此れは唯の暇潰しだった。
なまえの気持ちを知らないと言ったら嘘になる。
けれど。
「確信が、欲しかったのかもしれないですね。」
私の言葉を受け、乱歩さんは短く息を吐いた。
「面倒臭い奴らだなぁー。」
其れには苦笑いをする他なかった。
◇
暫くして、買い出しからなまえと敦くんが戻ってきた。
袋二つ分いっぱいに詰め込んだ駄菓子を抱えて。
敦くんは晴々とした表情をしていた。
「其の様子だと、もう林檎は要らないようだね。」
なまえが乱歩さんに駄菓子を渡しに行ってる隙に、敦くんにこっそり話し掛ける。
敦くんは眉を下げて笑った。
「はい、玉砕されてしまいましたから!」
「…そう、残念だったね。」
敦くんの頭を撫でてやる。
真っ直ぐな瞳が突き刺さる感じがした。
「太宰さんにも、必要ないですよ。」
敦くんの視線が、残された侭の毒林檎に向けられた。
毒林檎はソレらしく、緑色に変色を始めていた。
私にも、毒林檎なんて必要ない、か。
「そうだね、白状してこようか、私も。」
「応援してますよ!」
「はは、其れは心強い。」
駄菓子を楽しそうに広げるなまえに近づいて、心中を申し込もうか。
駄菓子を投げつけられて拒否されるのが関の山だが。
「なまえ!二人で心中しよう!」
◇
一方、ポートマフィアでは…
「へっくしゅん!」
「おや、風邪かえ中也。今日はもう休め。」
「大丈夫ですよ、姐さん。
屹度、誰かが俺の噂でもしてんでしょう。」
「色男は罪よの。」
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2018.03.28*ruka
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*confeito*