◇ 六限目


目を覚ましたのは、保健室の寝台の上。
ぼんやりと白い天井を見つめる。

「目を覚まされたか。」

声のした方へ顔を向けると、そこには保健室の貴公子こと、芥川くんが居た。
芥川くんの手が、私の頭の方に延びていた。
どうやら芥川くんが氷嚢で、患部を冷やし続けていてくれたらしい。

「芥川くんごめんね、ありがとう。」

保健委員の補佐をしている私は、芥川くんと顔を合わせることというか、看病することがしばしばあった。
とっつき難いところはあるが、決して悪い子ではない。むしろ私は敦くん同様、弟のように可愛がっていた。

「いつもと立場が逆だね。」

情けない、と起き上がろうとしたが、芥川くんに制止される。

「まだ寝ていた方が良い。」

芥川くんの優しさに甘えて、再び寝台に横たわる。また芥川くんが氷嚢を当ててくれた。

すると、勢いよく保健室の扉が開かれる。
それはもう壊れるんじゃないかと思う程。
そんな力いっぱい扉を開く奴を、一人だけ知っていた。

「なまえ!死ぬ時は一緒って、言ったじゃないか!」

言っていないし、死んでない。
煩い奴が来た。

「ね、あの莫迦に私は居ないって言ってきて。」

芥川くんに耳打ちをすると、二回ほど咳き込んで首を横に振られる。

「前々からなまえさんに何かあったら、即座に連絡するようにと、太宰さんに言いつけられていた故。」

仲間だと、信じていたのに…
寝台を囲っているカーテンを、大袈裟に両手で開かれる。

「なまえっ!」

人の名前を大きな声で叫んだと思ったら、トチ狂ったのか、横たわる私に覆い被さるように抱きついてきた。

「ちょっ…太宰、やめて!芥川くんも居るんだから。」

居ても居なくても駄目だけれど。
私の言葉を受けて、太宰が芥川くんを横目でチラリと見る。

「あぁ、君、居たの。」

屹度、私のことを知らせてくれたであろう芥川くんに向かってコレである。

「芥川くん、見ての通り私となまえは取り込み中だよ。空気を読んで席を外してくれ給え。」

「承知。」

いや、承知しないで。


2018.10.10*ruka



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*confeito*