◆ 六限目 2
「却説、邪魔者はいなくなったね。」
怪しく微笑む太宰は抱きつくのをやめ、少し距離ができたものの、依然として私を組み敷いている。
太宰に押し倒されたり、抱きつかれたりは日常茶飯事なので、特になんとも思わないが、その感覚がもう既に異常だとは思う。
溜め息混じりに退くように要求するが、何やら無言で私を見下ろし考え込んでいた。
「なまえ…」
名前を呼ぶ太宰のその表情は、どこか苦しげだった。
なんだろう、急に体調でも悪くなったのかな。
少し心配になり、太宰を見つめ返す。すると太宰の視線は、私の顔から少し下へ下がる。
「私、今日は我慢できないかも。」
「え?」
制服よりも薄い生地の運動着一枚。
少し汗ばんだ肌に、うっすらと下着が透けて見える。
しまった、太宰の変なスイッチが入ったか。
「だ、太宰…?」
「大丈夫、優しくするから。」
全然大丈夫じゃない。
太宰の舌が左耳を舐める。ぞわぞわとした感覚から、変な声が出た。
「…可愛い。」
太宰が耳元で小さく笑う。そこで笑うのは勘弁してほしい。
正直、ここまで身の危険を感じるのは初めてだった。どうしよう逃げたいのに、逃げられない。
「おい、変態糞鯖。保健室で盛ってんじゃねぇよ、ヤるなら他でヤれ。」
数学の時と同じ、天の声が聞こえた。
ぶっきら棒だし、他の場所でもヤらないでほしいのだけれど、取り敢えず助かった。
太宰は嫌悪感をこれでもかと表情に表す。
お昼も思ったけれど、どうやら二人は天敵らしい。
「なんでここに中也が居るの。真逆!なまえの寝込みを襲おうと?!ケダモノ!」
いやそれはお前だ、ケダモノめ。
「は?ンな訳ねーだろ。担任に様子見てこいって言われたんだよ。」
中原くんが太宰に蹴りを一発お見舞いすると、太宰が舌打ちをしつつ、漸く体を退けてくれた。
ありがとう、中原くん。最高のタイミングだった。
でも迷惑かけちゃったな。
「それにしても、頭に球直撃なんて鈍臭ぇ奴だな。」
中原くんから尤もなご意見を頂戴する。
真逆"あなたに見惚れてました"なんて、言える訳もなく苦笑いを返した。
「本当、気をつけなよね。」
太宰がそっと私の頭に触れる。
急に優しくなるのは狡い。少し気恥ずかしくなり、頷くだけの返事をした。
2018.10.11*ruka
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*confeito*