◆ 待ち遠しかったから


「太宰入るよ。」

横引きの扉を開けると、大人しく寝台の上で小説を読む太宰が居た。

「なまえ遅いよ、待ち草臥れてまた新しい自殺方法を試すところだった。」

なんて迷惑な患者なのだろう。
自殺未遂で運ばれてきたというのに、その病院でも自殺を試みようだなんて。

「こんにちは、太宰くん。」

私に続いて入室したフョードルさんが挨拶をする。
太宰はあからさまに厭そうな顔をした。それが見舞ってくれた友人に向ける顔か。

「……どうしてなまえと彼が一緒なの。」

そのまま視線がスライドしてきた。
数少ない友人を連れてきてあげた私に、感謝を受ける用意はあっても、睨まれる謂われはない。

「お友達なんでしょう、素直に喜びなさいよ。」

「誰と誰が友達だって?」

「ぼくと貴方が、ですよ。」

不機嫌な太宰とは対照的に、楽しそうなフョードルさんを横目に、花瓶のお花を取り替えようと窓辺へ移動する。

「ああ、そうだ、お見舞いに林檎を持ってきたのでした。」

「え、何で林檎なんて…」

まるで入院していることを"知っていた"みたいではないかと、思わず声に出す。
真っ赤な林檎は太宰にではなく、私に差し出される。
恐る恐る手を伸ばすと、その手は林檎に届くことはなく、太宰に捕まった。

「駄目だよ、なまえはそんなもので自殺はしない。私と心中するのだから。」


2019.07.24*ruka



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*confeito*