◇ 危ない人だから


にやりと怪しげな笑みをフョードルさんに向けているが、私は自殺する気も、まして太宰と心中する気もない。
訂正を口にする前に太宰が私に言った。

「彼はね、林檎自殺倶楽部の部員さ。危ない人だから、近づいてはいけないよ。」

「太宰くん、それをぼくの前で言いますか。」

私からしたらどっちもどっちだ。
はいはい、と流しながら太宰の拘束から抜け出し、花瓶を手に取り、病室を後にした。

若しも、差し出された林檎を手にしていたら、私はどうにかなってしまっていたのだろうか。
林檎自殺倶楽部…如何にもいかがわしい響きの倶楽部だ。
"自殺"という言葉で浮かぶのは、当然太宰だ。

フョードルさんはなぜ太宰に会いに来たんだろう。
若しかして…勧誘?
有り得る。
だとしたら、なんか…厭だ。
給湯室で花瓶を濯ぎながら、胸のあたりのモヤモヤも一緒に流せればいいのに、なんてことを考える。
どうして厭なのか、なんとなくその理由を今は考えたくないと思った。


2019.07.25*ruka



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*confeito*