◆ 遊びたかったから
「あの子に何かあったら、決して許さないからね。」
なまえが退室していった扉を見つめながら、太宰が言った。
「何か、とは。具体的にどんなことでしょう。」
「……何かは、何かさ。解るだろう。」
瞼を落としにこやかな表情のフョードルに対し、太宰は渋い顔で溜め息を吐く。
それすら可笑しそうに、フョードルは静かに笑い鞄から小さい板を取り出した。
「今日は澁澤くんは置いてきました。勧誘ではありません。
入院生活は仮令、短いといえど退屈でしょう。
偶然にもこんなものを持っています。どうです、チェスでも。」
太宰の返事を聞くより早く、フョードルは寝台に腰掛け、携帯チェス盤を広げ始めた。
太宰は布団から抜け出て、駒を並べるフョードルを手伝い言った。
「私が勝ったら早々に帰ってくれ給えよ。」
「ではぼくが勝ったら、太宰くんは我が林檎自殺倶楽部に」
「断る。」
「ふふ、それは残念。」
2019.07.26*ruka
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*confeito*