◆ 聞くのは野暮だと思ったから


フョードルさんの背中を見送った後、振っていた手をおろし軽く息を吐く。

「…今の太宰、感じ悪ぅー。」

私が退室していた間に何かあったのは明らかだったけれど、多分聞いても教えてくれないだろうから、敢えて茶化すように言った。
寝台横の丸椅子に座ろうとしたら、突然太宰が腕を掴んで強く引くものだから、思わず寝台に雪崩込んでしまった。
太宰が受け止めてくれたからどこも痛くはないけれど、何だろうと太宰を見上げた。
すると太宰は私の体の向きを変え、後ろから抱きかかえられる。
まるでテディベアになった気分だ。
頸辺りに頭を押し付けられて、少し擽ったい。
お腹に回された太宰の手に私の手を重ねると、少し力が加わった。
太宰が何も言わないから、私も黙って待った。

窓からは夕陽が差し込み、救急車のサイレンの音が聞こえる。
あと鴉の鳴き声も。
そろそろ面会時間も終わりかもしれない。


2019.08.10*ruka



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*confeito*