◇ 痛くしないで


「王様か…悪くない響きだね。却説、どうしようか。」

同じ高校生の筈なのに、王の風格を感じてしまうのは何故だろう。
足を組んだ太宰が、皆の顔をぐるりと見渡す。

「一番が」

割り箸を握る手に力が入る。
二番以外のコールを願いつつ、息を飲む。

「二番に」

思わず反応をしてしまった。
僅かに肩が揺れたくらいだから、気付かれていないことを祈り、命令を待つ。

「……デコピンをする。」

何故か太宰は不機嫌そうに言った。
私はというと、予想外に簡単な命令で拍子抜けをすると同時に、肩の力が一気に抜けた。
そんなことでいいのならと、二番を名乗る。

「一番は俺だ。」

また悪い顔をする中也くんが、一番と書かれた割り箸を私に見せつける。

「さっさとやっちゃって。」

その横で太宰が舌打ちをした。
急に不機嫌になったのは、一番が中也くんで二番が私って解ったから…?

「来いよ、なまえ。デコピンだ、デコピン。」

「うう、何も悪いことしてないのに…」

皆の前に出て、前髪を手で上げ額を晒す。
何度か中也くんにはデコピンをされたことがあり、中々痛い。

「中也くん、お願い…優しくして?」

中也くんに懇願の眼差しを向けると、ガンッという音が聞こえてきた。
一同が音源である太宰を見ると、グラスを思い切りテーブルに置いたようだ。
飲み物が若干溢れている。

「さっさとやってって、王様が命令しているのだけれど。」

太宰は笑顔だった。
何度も言うが、それが怖い。
自分で命令しておいて、何がそんなに気に食わないのだろうか。

「けッ、うるせぇ王様だな。おら、いくぞなまえ。」

ぺちっと至極控え目な音を立てて命令が実行された。全然痛くなかった。


2020.01.21*ruka



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*confeito*