◇ the 平民
「き、気を取り直して次行こう!」
アヤちゃんはまだ続ける心算らしく、また割り箸を回収する。
席に戻っても、中也くんと太宰は目を合わせてくれなかった。
次に引いた番号は一番。私は一度も王様に当たらない。ゲェムでも平民ポジションか。
「王様はー…私だぁ!」
フミちゃんが楽しそうな声を上げる。
クラスメート二人が楽しそうで何よりです…私の精神はどんどんすり減っていくけれど。
「フッフッフッ…皆ももう平凡な命令では足りないくらいに慣れてきていると思うので、そろそろ本気の命令、いっちゃいまーす♪」
この子は一体何を言っているのだろう。
本気の命令って何。
硬直しながら番号がコールされないよう只管に祈った。
「一番が六番のほっぺにチューする!」
私の石化は解けなかった。
残る一縷の望みは六番がアヤちゃんであること。
「俺、六番だわ!一番が女子であってくれ!」
奥に座る男子が声を上げる。
名前も覚えていない人と棒猪口ゲェムの次はほっぺにチュー…なんでこんなについていないのだろう。
涙目になりつつ手を上げようとした時。
「残念、一番は私だよ。」
「え…?」
向かいに座る太宰が手を上げる。
ほら、と皆に割り箸を見せる太宰の手には、確かに一番のものが握られていた。
見間違えたのかと、自分の割り箸を見ると、書かれているのは矢張り一番。
不思議に思い、太宰を見ると片目を瞑って合図を送ってきた。
そこで理解する。多分、太宰が持っているのは二番か三番の割り箸。
指で隠して一番に見せたのだ。
私が一番だと解って…
そんなことを考えている間に、命令は実行された。
すると、時間の関係もあり、次が最後となった。
一度くらい王様になって終わりたい、という願いも虚しく、書かれていたのは五番という数字だった。
「王様だーれだ!」
「最後の王様は私だよ。」
太宰がにこりと微笑んだ。
2020.01.23*ruka
前 ◆ 続
<<back
*confeito*