◆ 人生で何よりも難しいのは


「困りましたね…真逆、あんなに血相変えて探しに行ってしまうとは。」

フョードルがなまえの背中が見えなくなってから呟く。
小さく笑いながら、何かを取り出しそれを見る。
なまえのキーホルダーだった。
フョードルは辺りを見渡し、適当な生徒を探す。
そして一人の男子生徒に声を掛けた。

「スミマセンが、お願いがあります。勿論、報酬は弾みますよ。」



昇降口では、階段に腰を下ろす中原と手摺りに軽く凭れる太宰がなまえを待っていた。
二人が待ち始めて数分も経たないうちに、バタバタと誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。
顔を向けると、慌ただしく靴を履き替える人影が見える。
顔は見えなかったが、恐らくなまえだろうと、中原は腰を上げた。
するとその人影は、中原の横を駆け抜けるように過ぎようとしたので、中原は思わずその手を掴んだ。

「え、中也くん…?」

中原達が居たことすら気づいていなかったのではないかと思うほど、振り返ったなまえの表情は驚きに満ちていた。
そして、その頬は濡れていた。


2020.02.27*ruka



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*confeito*