◆ そして、自分自身の嘘を信じないことです
「ところでなまえ、無くなったのには何時気付いたの。帰宅後だったら帰り道に落ちているかもしれないよ。」
太宰の質問にドキリと肩を揺らすなまえは、視線を外しながら答えた。
「あの、じ、実は、帰ろうと思って正門を出たところで気づいて…朝登校した時には確かに鞄についていたから、落としたとしたら、学校しか考えられなくて…」
嘘を吐いてるようには見えないが、些か挙動が不審ななまえを、太宰が見逃す訳がなかった。
「正門を出た所で態々キーホルダーがついているか確認したのかい。」
なまえはこくこくと頷く。
目を合わせようとしないなまえの両頬を包み、顔を近付ける太宰。
その両手首を掴み、手を外そうと試みるも力では敵わない。真っ直ぐ見つめる太宰に対し、なまえは右へ左へ、忙しなく目を動かした。
「誰かに言われたのだね。」
観念したのか、なまえは視線を落とし、彼の名前を口にした。
「…ふーん、まあそんなところだろうとは思っていたけれどね。」
すると太宰はなまえの後方に在る植え込み辺りに視線を移す。
中原も捜索の手を止め、同じ方向を見ていた。
「中也。」
「ああ、なまえと待ってろ。俺が行ってくる。」
「いや、私が行くよ。」
「は、相手は何人かも解ンねんだ、俺が」
「解るさ、十中八九相手は一人。それも唯の尻尾だよ。本体はとっくに姿を消している。」
「…なんでそう言い切れる。」
「私なら、そうするからね。」
二人の会話が飲み込めないでいるなまえの頭をそっと撫でると、太宰は小声で言った。
「念の為、中也から離れないようにね。」
意図するところが解らなかったが、なまえは頷き了承する。それを確認すると、太宰は静かに植え込みの方へと歩いていった。
「あ、中也に変なことされたら叫んでね!」
くるりと体を反転させ、思い出したように言って再び歩いて行く。「しねーよ!」という中原の声は聞こえないフリをしていた。
2020.02.29*ruka
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*confeito*