◆ 塩を君に


白熱した闘いが繰り広げられていた大運動会も、残る種目は継走のみとなった。
敦くんを全力で応援すべく、ゴール前へ移動する。玉入れの時の応援の御礼、という訳ではないが、辛い時の応援は非常に心強いと、身をもって体験したから。
私の声援が同じ効果を齎せるかは不明だが、何もしないよりかはずっといい。
すると救護天幕の下に咳き込む人を見つけた。

「芥川くん、大丈夫?」

駆け寄り背を摩ってやるも、やんわりと手で押し退けられる。

「なまえさん、今は敵同士の身。情けは無用です。」

敵同士って。若干呆れつつも、芥川くんらしいとも思った。そういえば、鉢巻を血で染めるって敦くんに宣言していたんだっけ…私はにやりと微笑む。

「“敵に塩を送る”っていう言葉もあるのよ。」

すると芥川くんは目を見開き、咄嗟に距離をとる。そして咳き込む。私は苦笑いをして、再び背を摩ってあげた。

「冗談だよ、今は敵味方関係なく、私個人として芥川くん個人が心配なの。」

そう言って顔を覗き込むと、眉間の皺は相変わらずだったけれど、頬がほんのり染まっていた。まったく可愛い後輩である。

「丁度良いし、ここで一緒に応援しようかな。」

背を摩りながら言うと、直ぐさま否定の言葉が飛んできた。

「僕は応援をしに此処に居るのではありませぬ。唯、天幕の下で涼をとっていただけのこと。まして何故僕が中島敦なんぞの応援をせねばならぬのです!」

「え?そりゃあ敦くんの応援じゃないでしょ、敵だもの。紅組の応援でしょ?」

別に私がハメた訳じゃない、謂わば自爆だ。一体どれだけ敦くんの事を意識しているんだか。
芥川くんは照れ隠しに顔を背けたが、耳まで赤くなっていた。
そうこうしているうちに、始まりの号砲が響いた。


2020.12.01*ruka



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*confeito*