◇ 地元住民と間抜け面
「大丈夫だって、それより電車くるぞ。」
電車の到着を告げる、駅員さんのアナウンスが流れていた。
「あ、じゃあハンカチ持って行って。風邪ひかないようにちゃんと拭いてね。」
中原くんの手にハンカチを握らせて手を振る。
「は?みょうじは?」
不思議そうな表情で問われる。
あ、そっか、中原くんは知らないんだ。
「私、電車通学じゃないから。」
手を振った儘答えた。
暫く沈黙。
私の手だけが左右に揺れていた。
すると突然、その手を中原くんが掴み、制止した。
「はぁ!?じゃあ…手前は、俺を駅に送っただけってことか?」
「そう、なるねぇ。」
アハハと笑う私を、呆れ顔で見る中原くん。
「中原くんのおかげで、楽しい雨の帰り道になったよ。」
本心からの言葉だった。
なんだかそれを、ちゃんと伝えたくて、自然と笑顔で言った。
中原くんは拍子抜けにした様な表情を見せる。
"すっげぇ間抜け面"である。
これを言うと怒られそうだから、心に留めておくことにした。
中原くんは髪をわしゃわしゃと掻いて、真っ直ぐ私を見た。
「今度、必ず埋め合わせする。」
そう言って踵を返し、改札の中へと消えていった。
埋める穴などないというのに、一体彼は何を埋め合わせるというのだろう。
よく解らないけれど、少し楽しみな気持ちがあるのは確かだった。
いつの間にか雨も弱まった。
少し軽い足取りで雨の帰り道を歩いた。
2018.10.26*ruka
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*confeito*