◆ 借りは必ず返す主義


私が返事もせずに茹蛸状態になっているのを見ても、中原くんはいたって冷静の様で、なんだか少し釈然としない。

「この前、雨の日の埋め合わせするって約束したろ。」

そんなことすっかり忘れてしまっていた私は、明らかにテンションが下がった声で適当な相槌を打った。
なんだ、そういうことか。
それを先に言ってくれればこんな…こんな?
私は何を期待していたのだろう、不思議だ。解散命令を受けた熱は一気に散らばり元通り。

「あんなの気にしないで良いよ。結局、最寄り駅からお家までは濡れちゃったでしょう?
中途半端なことしちゃったなって、逆に申し訳なかったと思ってるし。」

あの時、私が引き止めなければ。
足の速い中原くんなら、若しかするとその方が被害は少なかったかもしれない。
ごめんね、と付け足して中原くんを見ると、若干機嫌が悪そうなのは何故。

「俺はどんな小さくても借りは返す主義なんだよ。」

なんだろう、脅されてるのかな、私。
然し困った。私はアレをこれっぽっちも貸しとは思っていないし、寧ろお詫びをするのは此方だと思っているくらいだ。
どうしたものかと悩んでいると、中原くんのコンビニで買ったであろうお弁当が目に入る。

「あ、じゃあ、その唐揚げ一個くれたらチャラで良いよ。」

私はそう言って、太宰にする時と同じノリで口を大きく開けた。
開けた後で、これは普通の異性のクラスメイトとすることではなかったかも、と気付く。
後悔先に立たず、開けた口を閉じるのも不自然。間抜けな自分を呪う。
救いだったのは、中原くんが何も言わずに、間抜けな私の口に唐揚げを放ってくれたことだ。


2018.11.04*ruka



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*confeito*