◇ 片道切符のハイタッチ


どれくらい時間が経っただろうか、高校生三名が本気で一匹の魚を探している。
ワイワイと楽しそうに魚を眺める子供連れから、奇異の目で見られるぐらいには異端の存在となっていた。

「中也、そっち行った赤い魚見て。」

「こいつか?クソ、岩陰に隠れて…みょうじの方から見えねえか?」

「えっ、どれ…あれ?ううん、違う。」

そんな具合で散々騒いで、大水槽前で粘る三人。ここまで本気で取り掛かる人はどれくらいいるだろうか。
相手は言葉も意思も通じない生き物。どんなに願っても、会える会えないは時の運。
今日の私たち三人は"会えない日"なのだと、諦めかけたその時だった。

「なまえっ!」
「みょうじ!」

太宰と中原くんに同時に名前を呼ばれる。
珊瑚礁から顔を出した魚が、悠々と私の方へ泳いできた。背びれの付け根辺りに星のような模様が見える。

「あ…この子だ!」

水槽越しに手を伸ばす。左右に散っていた二人が、私の元へ戻ってくる。すると、魚はまた岩陰に隠れてしまった。

「良かったな、見つかって。」

中原くんが笑顔で右手を私に向けて上げる。私はお礼を言いながら、そこに自分の右手を重ね、ハイタッチをした。
太宰の方に向き直ると疲れた様子で、眉を下げながらも微笑み、同じように右手を上げてくれた。太宰にもお礼を言ってハイタッチをする。
しかし私の手は太宰に捕まり、戻ってこれなかった。不思議に思い太宰を見上げると、そこには不敵な笑顔があった。
嫌な予感しかしない。


2018.12.26*ruka



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*confeito*