◇ 君の寝息を聞きながら


帰りの電車は空いていた。
席の端っこに私が座ると、その隣に太宰が腰を下ろした。中原くんは座らず、私の横の仕切りに背中を預けるようにして立った。

中原くんに貰ったイルカのぬいぐるみを膝の上で両手で抱きかかえる。なにやら隣からの視線が痛いので、ウミヘビちゃんのぬいぐるみも取り出す。
どうやって持つか悩んだ結果、イルカに巻きつけてみたら安定したので、それで落ち着いた。
笑い声と舌打ちが聞こえてきたけれど、座ったら疲れが急に押し寄せてきたので、私は意識を手放してしまった。



太宰が静かになったなまえを見る。

「…寝てしまったようだね。」

「ア?…あぁ、疲れたんだろ。」

太宰の声に反応して少し振り返り、なまえを見て中原が答える。太宰はスースーと小さな寝息を立て、フラフラと揺れていたなまえの頭を自分の肩に凭れかけさせてやる。
薄っすらと目を開けたなまえに、起こしてしまったかと太宰が見つめる。しかし直ぐにまた目を閉じ、太宰の肩に擦り寄って再び眠りについた。
太宰は穏やかに微笑み、なまえの頭を撫でながら寝顔を覗き込む。長い睫毛が影を落とす。人差し指の背で、睫毛に触れてみると、擽ったそうになまえは少し震えた。

「ふふっ、可愛い寝顔。」

「おい、変態。変な事すんじゃねぇ。」

中原が睨みつけながら威嚇すると、太宰ははいはいと手を離し、背凭れに体重を掛けると目を閉じた。


2019.01.15*ruka



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*confeito*