◇ 人気者


「…なまえの裏切り者。」

「人気者も楽じゃあないね、太宰。」

振り向かずに答えると、下駄箱の陰から太宰がひょっこりと姿を現した。

「非道いじゃないか、私の唯一心安らぐ場所をバラしてしまうなんて。」

ちらりと後ろを振り返った矢先、後ろから太宰に抱きすくめられる。
今日だけはこういった軽率な行動は差し控えて頂きたい。
乙女達の殺気が違う。目がマジである。
後ろから刺されてしまうのではないかとすら思う。
太宰はお構いなしに私の頭を撫でる。

「はぁ、安心する。このまま死ねたらどんなに幸せだろう。ね、なまえ、今すぐ私と心じゅ」

「断る。」

なんとか太宰の拘束から抜け出すと、にやりと笑ってみせた。

「真逆、なまえ、君…愚かな真似は止め」

「あー!太宰くん、おはよー!」

止める太宰を振り切り、態と私はなるべく大きな声で挨拶をした。
日頃のお返しである。

「居たわ!太宰くんよ!」

私の声に反応した乙女達が挙って猛進してくる。

「ふふ、じゃあね、太宰。」

「くっ…なまえ、この仕打ちは忘れないよ。」

手をひらひらとする私に吐き捨てる様に言うと、太宰は颯爽と姿を消した。
いい気味だわ。私は上機嫌で教室へ向かった。


2019.02.02*ruka



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*confeito*