◇ 気になる


「今日?二月十四日だろ。」

「うん、じゃあ何の日か解る?」

「は?」

駄目だこの人。
周りの生徒も私たちの遣り取りを聞いて、くすくすと笑っている。
狼狽える中原くんはなんだか少し可愛くて、憎めないなあと思った。

「今日は聖ヴァレンタイン日だよ、モテモテ中原くん。」

私が揶揄うように言うと、中原くんは数秒の空白の後、納得したように猪口冷糖を鞄に仕舞い始めた。
机の上・中と椅子の上のものを詰め込んでいき、中原君の鞄は直ぐにいっぱいになってしまった。
はみ出しているものもあったが、中原くんは「よしっ」と言って着席したからいいのだろう。
文句一つ零さずに一つ一つ仕舞う姿は紳士だ。人気があるのも納得がいった。

中原くんは、ふと私に視線を向けた。
私は中原くんの収納作業を眺めていたので、直ぐにその視線に気付いた。

「なぁ、みょうじも誰かに」

変な所で言葉を句切るものだから、小首を傾げ続く言葉を待った。

「いや、なんでもねぇ。」

中原くんは続きをくれる事はなかった。

その後、休み時間毎に乙女達が中原くんを訪ねては猪口冷糖を手渡していく。
中原くんはというと、傍から見ていても大変だろうに、厭な顔を少しもすることなく礼を言いながら受け取っていた。
予想外だった。面倒くせぇとか言って適当に遇らうタイプかと思った。
とても、私が渡せる隙はないな。
私は持参した猪口冷糖の入った袋を開けることはなかった。


2019.02.04*ruka



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*confeito*