◇ 今しか出来ない事


「…ちょっと、なまえ。」

不測の事態に反応が遅れた。
私は吃驚して離れようとしたが、顔が太宰の両手に捕まった。
なんか怒ってるような気がする。

「ごめん、起きてると思わなくて。それとも起こしちゃったかな。」

観察していた事を謝ったが、首を横に振られる。

「そんな事はどうでもいいよ。こっちはなまえが入ってきた時から起きてるっていうのに、一体いつまで勿体ぶる心算なんだい。
意地が悪いよ、まったく。」

話が飲み込めず、ぱちくりと瞬きをする。太宰が何に対して怒っているのかさっぱり解らない。

「なにをそんなに怒っているの。」

「別に、怒ってはいないよ。唯、よく考えてごらんよ。
薄暗い教室で人気者が居眠りをしているのだよ。
頭を撫でて頬に触れたのなら、次にすることは一つでしょう。」

物凄い勢いで捲し立てられるが解らない。
自分で自分のことを人気者と言ってしまう辺りは目を瞑った。悔しいが事実だ。

「え、えと、あ!上着を掛けてあげる?」

「優しさを有り難う、でも違う。」

「もうすぐ皆来るから起こした方が良かった…?」

「違うよ、もっと今しか出来ない事があるだろう。」

「今しか出来ない事?ドッキリを仕掛ける!とか?」

それは確かにやっておけば良かった。
でも溜め息を吐かれたので違うらしい。


2019.02.07*ruka



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*confeito*