◇ ごっこ
「やッ…」
咄嗟に太宰の顔を両手で思いっきり押し退けた。
グキッ
変な音がした。然も割と大きめの音だった。
「なまえさん?と、太宰さん!こんな薄暗い部屋で何してたんですか?」
「……ちっ」
敦くんの問い掛けに、あからさまに舌打ちをした太宰の首を更に強く曲げる。
「いててて!ギブ!それ以上曲げたら首がもげる!」
「見ての通り、整体ごっこだよ!」
私は笑顔で二人に告げる。
賢治くんは楽しそうですね!と微笑んでくれたが、敦くんは些か怪しんでいる様子で、太宰と私とを交互に見る。
「敦くんにもしてあげよっか?」
私は疑念を晴らすべく、太宰を投げ捨て敦くんの顔を両手で掴んだ。
非道いだの痛いだのと騒いでいる太宰を無視して、敦くんを見つめる。
大抵、三秒も見つめれば茹蛸敦くんの出来上がりだ。太宰にはないこの初心さが可愛い。
「……する?」
敦くんを見つめたまま小首を傾げ問い掛ける。
既に敦くんは耳まで真っ赤になっていたが、つい面白くて離さずにいた。
すると急に、敦くんの頭ががしりと掴まれ、後方へと投げられる。
「なまえ、近い。あとエロい。」
言うまでもなく太宰だった。一体今のどこがエロかったのか解らず、少しだけ不満を口にした。
それだけなのに、弾丸の様な反論を受ける。
私はそれをかいくぐって、賢治くんの陰に隠れた。
「賢治くーん、太宰さんがこわぁいよ〜」
巫山戯た口調で言うと、太宰は更に苛ついた様子だったが、賢治くんが宥めてくれた。
後ろに投げられた敦くんが、頭を摩りながら戻ってきた。
「そう言えば、表の貼紙って誰が貼ったんでしょうか。」
「なんだ敦、そんな事も解らないのか。」
不思議そうな表情で言う敦くんに答えたのは、お菓子を抱えた生徒会長だった。
2019.02.08*ruka
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*confeito*