◇ 心に決めた女性


「…なまえちゃーん、なんなの、その態度の違い。」

太宰が離れた所から、力のない言葉を発する。

「それにしても、太宰さん凄いモテようですね。」

漸く貼紙の意味が解りました、と敦くんが散らばる猪口冷糖の包みをまとめつつ笑った。
賢治くんも美味しそうですねといいながら、敦くんを手伝った。
当の本人、太宰は何もしない。

「哀しいかな、私の体も心も一つなのでね。全ての女性に応えてあげられなくて申し訳ない限りだよ。」

溜め息を吐いたと思ったら、頬杖を突きながらモテ男発言を吐き出す。
そんな姿も様になっているのだから文句の言いようがない。

「もう太宰さんには心に決めた女性がいるってことですか?」

賢治くんが無邪気に問い掛けると、太宰は優しく微笑んだ。

「君たち、なまえから貰った猪口冷糖を早く鞄に仕舞った方が良いよ。もう家に帰るまで出さない方が良い。」

そう言った太宰の手から、私の猪口冷糖は忽然と姿を消していた。
いつの間に仕舞ったのだろうか。
敦くんと賢治くんも言われるまま鞄に猪口冷糖を仕舞った。

するとその直後。

「皆揃っているか。会議を始めるぞ。真逆、ヴァレンタインなどという菓子会社の戦略に踊らされている輩はおらんだろうな。」


2019.02.09*ruka



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*confeito*