◇ 泳ぐ視線


教室に着くと、橙色の陽射しが差し込み、同じ様な色をした髪を照らしていた。

「中原くん、まだ居たんだ。」

一人溢れる猪口冷糖の包みと格闘している、中原くんに笑いながら声を掛ける。

「みょうじか、なあ、何か袋持ってねぇか。」

溢れ返る包みは、どう頑張っても中原くんの学生鞄に入りきる量ではなかった。
それにしても袋か…持ってたかな。荷物を探ると、ある物に手が触れた。

「あ!あるよ、丁度良いのが。」

私は先程まで、生徒会メンバー用の猪口冷糖が入っていた袋を取り出す。
一つだけ、猪口冷糖が残ったままの袋を。
それを思い出し、あ、と言い掛けたものの、袋を取り出し終えている手は、もう引っ込める事が出来ずに静止する。

「助かる、明日返すからちょっと借りるな。」

中原くんは私の手から袋を取ると大きく開いた。
すると当然見つかってしまう、一つ寂しく残った猪口冷糖。
無言でそれを見た後、中原くんの視線は私に移る。

「これ、誰に渡す心算だったんだ。」

袋から猪口冷糖を取り出し、少し低めのトーンで問い掛ける中原くんに、何故だか心拍数が上がった。

「えっと……」

軽いノリで中原くんにだと言ってしまえば、それで終わるだろうに口籠っては視線を泳がせた。


2019.02.10*ruka



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*confeito*