◆ 欲しかったもの


中原くんはじっと私を見つめて何も言わない。
私が答えるのを待つ心算なのだろうか。正直に、答えるしかないか。

「実は、中原くんに。なんか渡すタイミング逃しちゃって…それにほら、沢山貰ってるし、私なんかの手作り貰っても、迷惑かなって。」

へらりと笑って、中原くんの持つ猪口冷糖を取る。

「だからこれは、私が持って帰るよ。袋も別に返さなくていいから。」

そう言って自分の鞄に猪口冷糖を仕舞おうとした時、手首を掴まれる。
吃驚して中原くんを見たら、今度は視線を逸らされていた。

「……れよ。」

「え?」

「…っだから!それ、俺になんだろ。くれよ、みょうじの手作り猪口冷糖。」

照れているみたいに顔が真っ赤になって、怒ったような口調で言う中原くんが面白くて、つい吹き出してしまった。

「うん…有り難う、貰って下さい。」

差し出した猪口冷糖を受け取ると、中原くんは他の猪口冷糖を鞄から全部取り出し、私の物だけを入れた。

「え、何して…」

「大事だからな。言っただろ、貰った個数よりも"誰に貰ったか"が重要だって。」

真顔で答える中原くんに、それ以上聞けなくなる。
取り出した他の猪口冷糖は、私が渡した袋にパンパンに詰め込まれた。
中原くんの鞄は登校時と同じくらいスリムになった。比率がおかしいと思う。
でもまた中原くんは「よしっ」と満足そうだったので、良いのだろう。
多くの乙女達に申し訳ないと思う気持ちの中に、特別扱いを嬉しいと思う気持ちが確かにあった。
なんでそんな特別扱いをしてくれるのか、確かめたくて口を開こうとしたその時。
タイミングを見計らったかのように私のスマホが震える。
画面を確認すると"太宰"の二文字が表示されていた。早く来いということだろう。
顔を上げると一瞬、中原くんと目が合うも、直ぐに逸らされた。

「生徒会の奴等が待ってンだろ。」

私が頷くと、行けよと言われたので、そそくさと忘れ物を取り出し鞄に仕舞う。

「また明日ね、中原くん。」

「…みょうじ。」


2019.02.11*ruka



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*confeito*