◇ 量より質


手を振り背を向けようとしたら名前を呼ばれ、再び中原くんに向き直る。
真剣な声色と表情に一瞬どきりと胸が高鳴った。

「その…ありがとな。俺にって解った時、嬉しかった。」

はにかむように微笑んで言うイケメンのそれは狡いと思う。
頭を掻きながら照れている仕草をしているけれど、私の方が恥ずかしくなって顔が熱くなってきた。

「私も、渡せて良かっ」

「なまえ、良い事を思いついたよ!毒入りの猪口冷糖を二人で一緒に食べて心中するっていうのはどうだろう…て、中也なんで居るの。」

私の言葉を遮って、意味不明な事を口走りながら太宰が教室に入ってきた。
中原くんを見つけるやいなや、何故か私を悪者から守るように抱き締める。

「そっくりそのまま返してやるよ。」

中原くんは舌打ちをして視線を逸らすと、帰り支度を進めた。
その手の先にある包みを見つけた太宰が黙っている訳もなく、私を抱き締めたまま中原くんに話し掛ける。

「おや、中也も随分と猪口冷糖を貰ったようだね。私よりは少ないけれど。」

「そーかよ。」

太宰の挑発は珍しく空振りをする。
中原くんは競う事ではないと言っていた通り、個数を気にはしていない様だった。
この状態で喧嘩になると、私も巻き込まれる可能性が大の為、内心ほっとしていると、太宰がにやりと笑う。
嫌な予感しかしない。

「じゃあ、その中に"本命"からの猪口冷糖は入っているのかな。」


2019.02.12*ruka



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*confeito*