◆ ともすると、危難


「太宰。」

振り向いて、太宰の蓬髪に手を伸ばし、片方だけを耳にかける。

「うん、その方が私は好きだな。」

前から思っていた事だった。
片耳にだけ髪をかけた方がスッキリして良い。
太宰は一瞬驚いた様に見えたが、直ぐ真顔になりながら私から離れた。

「敦くん、悪いけれど少し外してもらえるかな。一時間…いや、三十分でいい。」

太宰は至極真剣に言うが、何故か学ランを脱ぎ始めているから、良からぬことを考えているに違いない。
狼狽える敦くんは三十分の潰し方を悩んでいた。
真面目か。

「こんなの相手にしてたら身が持たないよ、敦くん。」

そう言って席を立ったところを捕まり、壁に押し付けられる。
壁ドンからの顎クイである。
普通の女子ならば卒倒しそうな場面ではあり、私も緊張しないと言ったら嘘になる。
捕食されるのではないかという、不安でいっぱいだ。

「ねえ、なまえ。あんな殺し文句で私を煽ったのは君だよ。
覚悟はできているのだろうね。」

口元を歪ませ、妖艶に微笑む様は悪魔宛ら。

「煽ってないし、覚悟って何の覚悟よ。」

吠えるように言うと、太宰は軽く息を吐き、解放してくれた。

「まったく、君って人は。他の男にも同じような事をしていないだろうね。」

呆れたように私を横目で見る太宰だったが、呆れられる理由が解らず首を傾げた。


2019.04.17*ruka



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*confeito*