藍沢sideーーー





『……耕作が…あの教授と同じだとは思わなかったよ…。』






あいつのあの声が頭の中を木霊する。
何で、あいつが泣きそうだったのか最初は気づかなかったが。だが、昔のことを思い出し、俺の過ちにすぐに気づいた。






藤「お前、大丈夫か?」



藍「あぁ。見てたのか。」



藤「いや、すごい音してたぞ?」






医局でパソコンに打ち込んでいたら藤川が心配そうに話しかけてきた。





藍「悪いのは俺だからな。あんな顔、させるつもりじゃなかったんだ…」



藤「藍沢。相当、稜の事好きなんだな。」



藍「……」



藤「日頃、感情なんて表に出すことないのに神崎のことになると感情豊かになる。」



藍「あいつは、俺の光だった……。」



藤「……。」



藍「周りに壁を作る俺とは別に、あいつは壁を作らない。影にいる俺に常に光を照らしてくれていた。それで、気付いたら好きになっていた。」



藤「ふふ。お前、今日はよく喋るな(笑)」



藍「うるさい。」



藤「こんなところに居ないで、早く神崎に謝って来いよ(笑)」





藤川に言われた通り稜に謝ろうと医局を出て探した。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇




ヘリポート、食堂、屋上を探したが稜は見つからなかった。

医局に戻ろうとした時に、裏の備品庫から声が聞こえた。





「うまく入っていかないです……」



『横峯、落ち着いてやればできるはずだよ?もう一回一緒にやってみようか。これは人形だから、しっかりイメージして?肋間の上で思い切って開く……そうそう。胸膜まで大きく開いて…。』



横「……ペアンの先で胸膜を破って……、チェストチューブを入れて…」





備品庫にある人形を使って練習する横峯と、横峯を手取り足取り教える稜の姿があった。





『横峯は落ち着いてやればできるよ。自身がないのはいいことよ?』



横「え?」



『自身がなければこうやって練習する。藍沢先生だって、最初からあんなにできたわけじゃない。色んな参考書、論文を頭に叩き込んで色んな症例を経験したからこそ。あ、横峯のダメなところはね、スマホに頼りすぎるとこ。藍沢先生が人形じゃなく生身の人間で経験を重ねるべきだと言ったように、スマホ通りに現場はいかない。だったら、私たち上級医の経験を頼るべきだよ?今回みたいにね?』



横「はいっ!」



『あ、あと藍沢先生の事だけど。』



横「えっ?」



『許してあげてね?私たちさ、高校から一緒でね……。ずっと見てきて分かったことがあるんだー。藍沢先生は、他人にものすごく厳しい人。それ以上に自分に厳しい人…。彼は彼なりに、あなたに育ってほしいと思ってる。不器用だから、言葉のチョイスを間違えるけど……。絶対…絶対、目の前の命から逃げない。』





俺は、この時自分の気持ちを再確認した。稜への気持ちが昔から変わってないこと。



俺ができないことをさりげなくフォローしてくれるのは他の誰でもない稜なんだと……。







『はぁー。耕作の頬っぺた腫れてたらどうしよ…。』





横峯が先に備品庫を出ていったあと、独り言を話す稜。
謝りたい衝動に駆られた俺は備品庫へ入った。





『横峯、どうかし…た……え?耕作?』





備品庫の入り口を背にしていた稜は、俺の足音を横峯と勘違いしていた。
そして、俺は気づいたら稜を後ろから抱きしめていた。





藍「……ごめん。嫌な思い出を蘇らせた。」



『…ううん。もういいよ。耕作の言ったことも間違ってないし。外科医は経験がすべて、私もそう思うから。それに、横峯には耕作の指導は合ってると思うし。




私の方こそ、ごめん。痛かったでしょ』





身体を反転させて俺の頬を触る稜。





『もう二度と、患者さんに対して練習台って言葉使わないで。あの教授みたいに……ならないで…』



藍「あぁ。すまなかった。」





稜の母親は事故で植物状態になった。入院先の病院で研修医の“練習台”にさせられているのを稜は見てしまったことがある。だから、俺が横峯に言ったことが許せなかったんだと、後から後悔した。