『秋本二郎さん。意識混濁、Afがある。脳梗塞かも。』
藍「(無線)分かった。頭部MRIの連絡しとく。」
『お願い。
灰谷くん、酔った?』
灰「い、いえ…」
神崎が具合の悪そうな灰谷に声を掛けた後に、秋本が嘔吐した。
素早く神崎と冴島が挿管に取り掛かった。
『カフ、固定してくれる?』
冴「ハァ、ハァ、ハァ…。」
カフ固定の指示を出したが、いつも指示する前に準備している冴島の反応がなく顔を上げると同時に愕然とする。
バタン!!
『冴島さん!!』
神崎はすぐに異変に気づき翔北に無線をつなぐ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『(無線)こちら、翔北ドクターヘリ。』
藍「どうかしたのか?」
急に入った翔北救命センターの無線。
初療室で患者の受け入れ準備をしている医者と看護師はその無線に耳を傾けていた。
そして、藍沢は一度患者の情報を伝えてきた神崎が再度無線をつないできたことに違和感を感じていた。
なぜなら、患者の急変には対応できる医者であるからだ。
『(無線)…今すぐ、救命を封鎖して除染の準備に取りかかって…ください。』
藍「稜、何があったんだ!」
仕事中は苗字で呼んでいた藍沢。
ただ事じゃない無線の内容に焦りを隠せないのだろう。
『患者がヘリ内で嘔吐……。吐瀉物を浴びた冴島さんが意識を失った…。灰谷くんも吐き気、眩暈の症状がある…。患者が毒物を飲んでいた可能性がある……。考えられる……毒物は………ハァ、ハァ、サリン・VX……マスタード・一酸化炭素・ホスゲン……CSガス……ルイサイト……シアン……有機リン……。私には匂いは感じられなかった……。助けて……、こ、さく…冴島さんを……。ブチっ』
神崎は無理矢理無線を切った。
それほどに限界だった。自分の体内も毒に侵されていたから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヘリポートには除染するスペースを確保しヘリの到着を待っていた。
ブロロロロロロ……
ヘリが降り、すぐに灰谷が降りてきた。
藍「暴露するぞ!お前らまだ接触するな。医者が全員倒れるのはまずい。」
藍沢はフェローに待機するように指示を出す。
藍「稜!大丈夫か!」
『私は平気…。冴島さん…先に……。』
藍「あぁ。
冴島、分かるか?」
藍沢は冴島を横抱きしストレッチャーに乗せた。
藍「白石、稜がまだヘリから降りてこない。冴島を頼む。」
白「わかった。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初療室には、冴島と患者の秋本が挿管されていた。灰谷は車椅子に座り毛布をかぶっていた。
橘「大丈夫か、灰谷。…白石、神崎は?」
橘は他科とのベッド調整などのやり取りを終え初療室にやってきた。
白「今、藍沢先生が除染を……」
藍「稜、大丈夫か!しっかりしろ!」
『さえ、じまさん……は?』
藍「冴島は、ちゃんといる……。大丈夫だ。」
橘「稜!!大丈夫か!?」
『何とか……。啓ちゃん……。』
橘は酸素マスクをする神崎の口元に耳を寄せる。
橘「……っ。」
緋「なにこれ、どうなってるの?」
藤「はるか!」
橘と神崎が話し終えるのと同時に緋山らが初療室に走りこんできた。
藤「解毒剤は?何を投与したんですか?毒物は何ですか?」
橘「今……、特定中だ…。」
藤「これ、何分経ってるんですか?
おい、白石。これ何分経ってるんだよ?」
白「20分。」
藤「20分。20分って……。藍沢、どうにかなんないのか?どうにかしてくれよ。早くしないと間に合わなくなる!!」
藍「落ち着け、藤川。お前だけじゃないんだよ。」
その時、神崎が藍沢の手に触れる。
藍沢は、酸素マスクを外し耳を寄せる。
『は、いたにくん…。思…い出、して……。匂い、とか…』
ピコーン、ピコーン。
神崎につけているモニターが異常を知らせていた。
藍「まずい。挿管する。
灰谷、思い出せ。呼吸状態、身体の痛み、目の見え方、耳の聞こえ方、皮膚に発疹は?稜の言う匂いは?どんなことでもいい。思い出してくれ。」
灰「吐き気がして、頭痛がして、呼吸が速くなって…。」
ピコーン、ピコーン
冴島、神崎のモニターが異常値を知らせる。
雪「血圧90切りました」
灰「あ…甘い匂いが…。甘酸っぱいような…」
藍「お前が感じて稜が感じない。
シアンだ!
亜硝酸ナトリウム10ミリとチオ硫酸ナトリウム80ミリ静注する」
雪「はい。」
緋「プロポフォール準備して。」
名「はい。」
橘「亜硝酸アルミも必要だ。持ってきてくれ。」
橘はホワイトボードの“シアン”に赤線を引きながら指示を出した。