解毒剤となる薬を投与し、患者や冴島、神崎の命は助かった。
ICUで藍沢が冴島の状態を藤川に説明していた。
藍「肺水腫は軽度だが、脳実質の腫れが強い。」
藤「植物状態になる可能性も、あるってことだろ。」
藍「…。」
藤「なんでだろうな…。今日に限って全部青だったんだよ、信号。いつも車で通勤してる道の。俺たち、その時間だけなんだよ。2人で落ち着いて話せるの。だから、今日話そうと思ってたんだよ、そこで。どう切り出そうって思ってるうちに病院着いちゃって。1つでもどっか赤だったら…俺言えてたと思うんだ。
お腹の子のために、ヘリ降りてほしい、って。
神崎の容体は?」
藍「冴島と同じだ。」
藤「…そっか。ずっと、はるかのこと気にかけてくれてたって白石が。自分も危険な状態なのに。」
藍「昔から、自分より他人のことばかりだった。」
藤「…好きなんだろ?」
藍「俺も伝えるつもりだった。今までに何回も。医師免許取った時、翔北に来る前にも。言うチャンスは何回もあったんだ…。」
藤「そうか。なら、目が覚めたら、ちゃんと伝えるんだな(笑)」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
救命の医局。
神崎のデスク前に橘の姿があった。
橘「…ッ!!」
橘の手には1通の手紙が握りしめられていた。
緋「橘先生?どうかしましたか?」
橘「緋山か…。」
緋「神崎先生、無事でよかったですね。でも、神崎先生とは、どういう関係なんですか?優輔くんと仲良しみたいですけど。」
橘「稜は、大学の同級生の妹だ。まぁ、正確に言うと稜は事故で両親を亡くして、そいつの親が引き取って妹になったんだけどな。小さいときから可愛くて。人懐っこくて…。」
緋「そうだったんですね。……それは?」
橘が握りしめている封筒を指さした。
橘「これな、稜が優輔にって…」
緋「ドナーカード?」
橘「自分が救命の現場で何かあった時、脳死状態になった時は優輔に心臓を…って。」
緋「でも、大人と子供の心臓では……」
橘「稜の体格は、そんなに大きい方ではないから、優輔にも適合するって。そこまで手紙に書かれてる……。」
緋「…そうなんですか。」
橘「いつもそうなんだよな…。いつも、自分の事より他人の事、患者のことを優先する。兄貴にそっくりだよ。国際人道支援医師団に行ったのだってそうだ。兄妹して…。」
ガチャ…
白「橘先生…。お客さんです。」
白石は医局に一人の男を連れてきていた。
橘「進藤…。」
進「おう。久しぶりだな。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
藍「失礼します。橘先生、なにか?」
橘「おう、藍沢。神崎の状態を説明してほしくてな。稜を担当している藍沢だ。」
進「耕作くん。」
藍「お兄さん…。」
橘「なに、お前ら知り合いだったのか。」
橘は、カンファレンス室に進藤を案内し、神崎の担当医でもある藍沢をカンファレンス室に呼んでいた。
藍「患者はシアン化合物が含まれたカプセルを飲み込んで自殺をはかったようで、その患者を搬送中、ヘリで嘔吐しヘリ内が汚染され稜さんもシアン化合物中毒に。毒物が確定したあと解毒剤となる薬を投与し命は助かりました。しかし、肺水腫は軽度ですが、脳実質の腫れが強く出てます。最悪……」
進「植物状態か…。」
藍「はい…。」
橘「それとな、進藤。これを預かった。」
進「これは?」
藍「ドナーカード?」
橘「あぁ。息子の優輔がな、拡張型心筋症でドナー待ちしてるんだ。それを知ってる、稜が準備してたみたいなんだ。自分に何かあったらって。」
進「そうか。」
橘「驚かないのか?」
進「あいつな、救命医になった時から持ってるから、さほど驚かない。あいつの意思も聞いてる。」
橘「そうか。」
藍「あの…、お兄さんにお聞きしたいことがあるんですが…」
進「どうかしたか?」
藍「汚染された身体を洗浄してるときに見たんですけど、背中から左上腕にかけて火傷の跡があったんですが……」
進「あ、あれか。国際人道支援医師団で紛争地帯にいたときにな、子供たちと稜が遊んでいた建物が爆撃にあって……巻き込まれたんだ。稜は助かったが、一緒に遊んでいた子供たちは亡くなった…。」
藍「そのことを、今でも悔やんでいる。」
進「耕作くんには話してたんだな。」
藍「はい。火傷の事は知りませんでしたが、スマホの画面をじっと見つめて考えているときがあったので…。」
進「そうか…。耕作くん、稜のこと頼むな。橘も稜のこと頼む。」
橘「稜の顔見ていかないのか?」
進「俺も病院戻らなければならないんだ。人手不足で長時間空けられない。それに、いつまでもここにいたら、稜に怒られるよ(笑)仕事しろってな。」
進藤は、そう言いながらもICUのベッドの上にいる神崎の頭を撫で病院を後にした。