Marguerite

お迎えと接触

 
工藤君に送って貰った。濡れたわけではないけれど念の為、ということでお風呂に入ろうとしていたときのことだった。殆ど……というかこっちの世界に来てからは一度も鳴ったことがない携帯が鳴った。言わずとしてもわかる相手に苦笑いをしながら通話ボタンを押す。

「赤井さん、どうしたの?」
『今、大丈夫か?』
「じゃなきゃ取らないです」

何か周りを気にするように、赤井さんは私に訊いた。前に会った時に確かに私の携帯番号を教えたけれど、まさかこんなに早くかかってくるとは思わなかった。
赤井さんはなにか言いにくそうに口ごもった後、小さく息を吐いてた。

『仕事先で急に雨に降られてな…』
「傘持って行けばいいですか?」
『……すまない』

申し訳無さそうに言う彼に別に気にしなくていいのに、と思いながら脱衣所から出る。リビングに戻って外を見てみれば、先ほどより雨は少しばかり強くなっていた。さすがにこの雨の中走って帰れというのは酷なもの。ホテル暮らしの彼がホテルに変えるのか私の家に来るのかはわからないが私の家に来られても片付けが大変なことになるだろう。
キーケースと私が使う傘、それに赤井さんが使う用に大きめの傘を一本持って外に出る。もちろん、携帯は通話のままで。

「赤井さん、今どこにいます?」
『杯戸シティホテルのロビーだ』
「ちなみに帰る場所は」
『そっちに行っても大丈夫か?少し手違いがあってな』
「わかりました。そっちに向かいますね」

そのまま一言二言話して、通話を終了する。携帯を制服のポケットに入れて、私は杯戸シティホテルへと向かう。
赤井さんのあの言い方からして、恐らくこっちに泊まるつもりなのだろう。お客さん用の布団はあるし、特に問題はないはず。
家にある材料で夕飯が何が出来るかを考えながら、私は足を進めた。

 + + +

杯戸シティホテルの中に入れば、ロビーのソファーに赤井さんが座っていた。ただ、一人ではなくそこに金髪の女性がいるけれど。それは、生で見るのは初めてだけれど前の世界にいたときには何度も見たことがある。FBIで働く、元赤井さんの恋人。
私が声をかけるべきか悩んでいると、赤井さんが私のことに気付いたらしく自分の元に来るように促してきた。促されたからには行くしかないと私は二人の座るソファーに近付く。

「すみません、まだお仕事中でした?」
「終わってただ話していただけだ。気にすることはない」

赤井さんがもう帰るつもりだ、と言ってソファーから立ち上がったとき。赤井さんの目の前のソファーに座っていたジョディさんも立ち上がった。

「貴方が、シュウのお気に入り?」

ずい、と私の前に立っていた赤井さんを避けさせて私を見る目の前のジョディさん。元々赤井さんから話を聞いていたらしく、興味津々に上から下まで品定めでもするように私のことを見た。

「っ、おい……」
「シュウがすごく気に入ってるみたいだから気になってたのよね」
「は、ぁ…」

赤井さんが声をかけてジョディさんを止めようとしたけれど、ジョディさんはそれに構うこと無くにっこりと笑顔を見せながら私を見る。私とジョディさんの間にいる赤井さんが悩ましげに頭を抱えていることも気になるけれど、今はどちらかというとジョディさんはどこまで知っているのかが気になるところだ。

「大丈夫だ、そんな変なことは話していない」
「変なことって……」
「大丈夫よ。シュウがやけに気に入っててよく家に行ってるってことしか知らないわ」
「十分だと思いますけど…」

てっきり私のことを話していると思ったので思ったよりダメージはないけれど。でもFBIの人がそこまでしてるって知っていていいものなのか…。
私がどう返そうか悩んでいると、突如腕を引かれる。突然のことに体勢を崩してこけそうになるも、腕を引いた人の身体にもたれかかり、なんとかこけずにはいられた。

「あまり詮索するな。一般人だ」

私の腕を引いたのは赤井さんで、私とジョディさんとの間を割って入る。が、ジョディさんは気にした様子はない…というよりも少し楽しそうだ。

「その一般人に、随分と執着してるじゃない?」
「……………」

ジョディさんを私に見せないように、赤井さんは私の顔を胸板に押し付ける。私から赤井さんの顔は見えないけれど、何やら不穏な空気なのはわかる。

赤井さんは私の持っている二本の傘のうち小さい方を取って、ジョディさんに投げ渡した。…傘は投げ渡すべきではないと思います。

「本部まで戻るんだろう」
「あら、借りてもいいの?」
「行き先は一緒だ、一本でいい」

私を引き寄せていた腕を緩めて、もう一本の傘も彼に取られた。そのまま赤井さんに腕を引かれるように歩き出す。最後に振り返ってジョディさんの方を見れば目が合ったので頭を下げた。彼女は、笑顔で私に手を振っていた。
 
2014.06.29
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