Marguerite

交差する心と空模様

 
少し前に行われたテストが返されてきた。学校が始まって一番最初の大きなテストで、全ての教科のテストが返され終わるころには、校内での順位も発表されるのだろう。
テスト前だから、と授業以外に特別勉強はしていないが高校生活も人生二回目。全教科満点とかそういうことはないが全て平均点以上の点数を出していた。返されてきた答案を見てみればまぁ間違えてるとこはテスト中のど忘れだったりケアレスミスだったりだ。その辺りを気を付けていれば次回もいきなり平均点が下がるようなことはないだろう。
点数がどうだ、採点がどうだといろいろと飛び交うクラスの中私が雨が降る外を見ていたときだった。

「篠宮って、勉強出来るんだな」
「……それは、出来ないと思ってたってことでいいのかしら?」

私に声をかけてきたのは、あくまで私の中ではだが本の貸し借りをする程度の仲の工藤君だった。工藤君が手に持っている答案も、平均点以上の悪くない数字が書かれている。

「出来ねぇとは思ってねぇけど、まさかここまでとは思ってなかったんだよ」
「あー…私家庭教師いるから」
「え、」

嘘は言っていない、嘘は。授業でコレどういう解き方だったっけ、と疑問に思ったことは基本的には授業でいつもより真剣に取り組み、それでも理解出来なかった場合は赤井さんに訊くことにしている。決して頭は悪くないし、むしろ学校で習うよりもわかりやすい。これを家庭教師と言わず何と言おうか。
最も、あまり気にしていないときは頻繁に家に来るのに必要としているときはなかなか現れないわけで。やはり基本的には授業中に解決するのが一番いいということで訊くことは少ないのだけれど。

「工藤君も、決して悪くはないでしょ?」
「悪くはねぇけどよ、オメーには負けるって」
「そう?」

私の隣に座る工藤君が不満気に言ったけれどもスルーしておくことにしよう。なんたって高校生活二回目。強くてニューゲームみたいなものだ。…ニューでは、ないかもしれないけど。
返された答案をクリアファイルに仕舞いながら、高校生のフリをするのも楽じゃないと小さく息を吐いた。

 + + +

授業中に降りだした雨は下校時間になっても止むことはなかった。朝は雨が降ってなかったから大丈夫だろうと思ったのが失敗だった。もし赤井さんが休みならここぞとばかりに呼ぶのだが生憎暫くこっちには帰ってこないとのこと。雨が止む気配は、無い。

(学校から家まで遠くはないけど、この雨じゃなぁ……)

空から落ちる雨はまさにバケツをひっくり返したような雨だ。走って帰って頭からシャワーを浴びながら浴槽にお湯を貯めれば風邪をひかずにいられるかもしれない。ついてないと思いながら屋根の下から一歩踏みだそうとしたとき、私の腕を掴む人に、それは阻止された。

「工藤君?」
「オメー傘持ってねぇんだろ?」
「朝降ってなかったし大丈夫かなって思ったから。帰ってすぐお風呂に入れば大丈夫だよ」
「入っていけよ、送ってやる」
「へ?」

少し大きめの傘を広げながら、工藤君が言った。
私と工藤君って、あくまでクラスメイトですよね?たまに本を借りることはあるけれどせいぜいその程度だ。私から工藤君に話しかけることは本を返すときぐらいだし特別仲の良いわけでもない、はず。それとも彼はただのクラスメイトでも送るようなお人好しなのだろうか。

「入んねぇのか?」
「そ、の……毛利さん、は…?」

苦し紛れに出た言葉。大変申し訳ないのだけれど毛利さんを理由に断れはしないだろうか。決して工藤君のことが嫌いなわけじゃない。でも、ここで誰かに見られて変な噂を立てられても困る。毛利さんがいる以上そうそう無いような気もするが、万が一ということもある。そもそも私なんかと噂って工藤君からすれば迷惑すぎるっていうか私死にたくない。
赤井さんの件でだいぶ踏ん切りはついたけれど工藤君となると話は別だ。

「蘭?蘭なら傘あるしそもそも部活」
「……そう」

"神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと"

某ゲームの言葉が頭を過ったけれど気が付かなかったことにした私は間違っていないはずだ。大丈夫、まだ大丈夫だ。まだフラグは立っていない。

「…じゃあ、申し訳ないけど送って貰おうかな」
「おー」

私は自分自身に大丈夫だと言い聞かせるように何度も思いながら、工藤君の広げた傘に入った。
 
2014.06.19
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