――貴方は聞きたい?
目の前に座る彼女にそう尋ねられて、私は頷く。目の前に座る彼女がお姉ちゃんのことをどう思っていたのかは分からない。けれど、私は全てを訊くためにここに来た。
「灰原さんは、お姉さんが付き合ってた恋人…諸星大は、知ってるよね?」
「えぇ…。お姉ちゃんを利用して、組織に入った人でしょう」
「うん。私ね、その人のことがずっと好きだったの」
昔のことを思い出すように、運ばれてきたキャラメルラテを見ながら彼女が呟いた。その表情はなぜかとても幸せそうで、その諸星大を、思い出しているのだろうか。
「その諸星大とは、お姉ちゃんが死んだ後はどうなったの…?」
とても残酷な言葉だと、自分で言いながら思った。彼女の想いは、その男に届いたのだろうか。きっと、私が会うことはないであろうその男に。
「別に、どうもしないよ。ただ私が好きだっただけだもの」
「…そう、」
「私は彼のことが好きだったから。多分、その彼の為に彼女を助けようとしたんだと思う」
彼女の言葉に、息を呑む。自分を犠牲にするほど、その男が好きだったのだろうか。私はそこまで深く人を好きになったことがないけれど、どんなものなのだろうか。そんなに、一途に一人の人を愛すというのは。
「でもね。これって表向きの理由だと思うの」
「表向き…?」
「もし私がいなくなっても、彼女を助ければ彼の中に私が残る。彼が明美さんを見れば私を思い出す。それって、すごく素敵なことじゃない?」
狂気に満ちたその言葉に、一瞬ゾクリと背中が震える。私はさっき彼女を一途と表したけれども、その一途の中に見え隠れする執着に、小さく息を吐く。
「…なんてね」
「え?」
「勿論、内心そう思うところが少しはあるけれど…私は諸星さんを苦しめたいわけじゃないから。明美さんがちゃんと組織から抜け出せて、2人がちゃんと恋人同士で付き合うことになったら、私は彼をようやく諦められるかなって」
「……そう、」
どれが、彼女の本心なのかは分からない。きっと、それは彼女自身も同じなのだろう。ハッキリと、どれが本心だと言えるものではないのかもしれない。
「恨むなら、私を恨んでよ」
「恨む…?」
「諸星さんは確かに最初こそは組織に潜入するために明美さんに近付いた。それは紛れもない事実だけど…彼は、ちゃんと明美さんのことを愛していたよ」
「…そう、なのかしら」
「うん、絶対。ずーっと諸星さん見てた私が言うんだもん、間違いないよ」
そう言いながら、目の前の彼女はどこか遠くを見ながら泣きそうな顔をした。
そこで、ふと思った。目の前の彼女はお姉ちゃんの恋人であった諸星大が好きで、ある意味お姉ちゃんがいたからこそ、彼女は一歩引いてその諸星という男を見ていた。なら、お姉ちゃんがいなくなった後はどうしようと彼女の自由だ。例えその男をお姉ちゃんがいなくなった悲しみに浸け込んでも、だ。
「…明美さんがいなくなった後の私と諸星さんの関係、気になる?」
「っ、何で…」
「そんな顔、してたから。残念だけど、何にもないよ。私の片思いだったから」
「どんな、人なのかしらね。その男」
純粋に、興味を持った。
お姉ちゃんのことがあるから、憎しみが全くないと言えば嘘になる。けれど、こんなにも一途に愛される人。例え、自分自身が危うくなると分かっていても、守りたいと思われる人。
もしその男に会ったら、お姉ちゃんがその人を好きになった理由が分かるだろうか。
「明美さんのことを助けられなかった私を、恨んで?騙したことは悪いことだけれど、それでも明美さんのことを本気で愛していたあの人を、恨まないであげて…?」
泣きそうな声で告げる彼女に、私は小さく考えておくわ、とだけ呟いた。
2016.01.06
back