Marguerite

幽霊騒動の始まり

 
(あれ、保健の先生がいない……)

紙で手を切ったから絆創膏を貰いに保健室に訪れたが、そこは無人だった。血がドバドバ出ているわけではないから、絆創膏はしなくても大丈夫だろうか。本当は念のため消毒をしたかったのだけれど仕方がない。それに、家に帰れば消毒液ぐらいはある筈だ。いないものはどうしようもないし、諦めて帰ることにしよう。そう思い踵を返して廊下に出る。

「っ…!」

予想外の人物がそこにいて、思わず一歩下がる。私の様子に目の前の人は驚かせたと勘違いさせてしまったらしく、少し笑みを浮かべてすみません、と謝罪をする。
どうして、彼がここにいるんだっけ。幽霊船の話が終わったから、ベルモットは撤退したはず。それなのに、何故。
思い出せない記憶をぐるぐるさせながら、とりあえず、と私は目の前の彼の頬を引っ張った。

 + + +

「ホントにすみませんでした…!!」
「いや、話はFBIの捜査官から聞いてるから大丈夫だよ」
「でも私思いっきり引っ張りましたよね…!?」
「ま、まぁ……。でも事情は知ってるから」

忘れてた。完全に忘れてた。そういえばこんな話あった。
新出先生の頬を引っ張って、彼が本人であると分かったと同時に私の脳内に学校の幽霊騒動という言葉が思い浮かんだ。その瞬間、私は手を離してその後はもう平謝りである。思いっきり蹴飛ばしたりはしなかったけれど突然頬を引っ張るなんて何をしているんだ私は。

「私もちゃんとジョディさんに話聞いておくんだった…」
「あれ、聞いてなかったのかい?」
「ジョディさん入院してるから、退院してからでいいかなって思ってたんですよね」

まさかこんな早くに戻ってくるなんて考えてなかった。原作でもベルモット編が終わった途端ぱったりと出なくなっていたから記憶から抜け落ちていた。
青森に行く予定だったんですけど、結局こっちに戻ってきちゃいました、なんて他愛もない話をしながら下駄箱へと向かう。下駄箱には、やっぱりと言うべきなのか毛利さんと鈴木さん、そしてコナン君がいた。

「あ、新出先生!?」
「あれ?裁判が終わったから青森の病院に行かれたって聞きましたけど…」

驚いたように毛利さんと鈴木さんが新出先生に話しかける。当たり前ではあるけれど、新出先生がこっちに戻ってくるなんてことは生徒たちにはまだ知らされていない。驚くのも無理は無いだろう。コナン君も、別のことで同じように驚いているのだけれど。
毛利さんや鈴木さんとは違う驚き方をしているコナン君の隣にしゃがんで、声をかける。

「あの新出先生は本物だよ」
「ベルモットじゃ、ねぇのか…?」
「さっき私がベルモットかと思って思いっきり頬引っ張っちゃったから、大丈夫。ご家族?の方がアメリカが合わなかったみたい。それにジョディさんから私とコナン君は事情を説明してやってほしいって言われてるって」
「大変だな、新出先生も…」

鈴木さんと毛利さんに捕まって話している新出先生を見ながら、コナン君が苦笑いを浮かべる。とりあえず新出先生が二回も頬を引っ張られることは回避できたので小さく息を吐く。多分私結構思いっきり引っ張ったから痛かったと思うのでせめてもの誠意だ。

「ところでコナン君は何故ここに?」
「オメー、この学校の幽霊騒動って知ってるか?」
「あぁ、美術部員の?知ってるけど」

あれの謎を解きたいんだとよ。そう言って少し呆れたようにコナン君は言った。けれどちゃっかりついてきてるあたり貴方謎解く気満々じゃないかということは言わないでおこう。
幽霊騒動の結末を知っている身としては何とも言えない気分だ。これは多分、ちょっとしたすれ違いが引き起こした事件。別に人が死んだりするわけではないから、気は重くないけれど。

(卒業、かぁ……)

私がこの学校を卒業するころ、隣にいる彼はどうなっているのか。筋書通りに全て終わるかは分からないけれど、私の知っている未来を思い出す。無事に、そうなってくれればいいのだけれど。

「そうだ!新出先生と篠宮さんにも手伝ってもらおうよ、幽霊騒動!」
「あ、いいねそれ!」
「「え?」」

ちょっと意識が違うところにいっていた私は、毛利さんの言葉を聞き返した。
 
2016.01.30
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