Marguerite

その噂はどこからか

 
「まず最初はここ…。嘆きの体育倉庫…」

体育倉庫の扉を開きながら、鈴木さんが言う。どうやら毛利さんは怖いらしく、鈴木さんの後ろから覗きこむようにして体育倉庫を見ていた。

「コナン君、どう思う?」
「まぁ、ありがちな話なんじゃねぇの?」

あまり怖いものが苦手なわけではない私は、コナン君に話しかける。コナン君も別に特別こういうのが苦手なわけではないらしく、わりと素っ気なく私に返す。
まぁ学校の怪談はどこも似たようなものらしく、どうやら誰もいないはずの体育館倉庫から誰かがすすり泣くおぞましい声が聞こえたとか聞こえないとかそういう話らしい。鈴木さんは一枚の布がかけられていた机を見せて、それが二年前に学校で謎の死を遂げたとある男子生徒の机であるということを説明する。刹那。

「保坂君は運悪く階段から足を踏み外して、落ちた時の打ち所が悪かっただけ!変な噂をたてないでよ!」
「あれ?数美先輩…」
「毛利か…。こんな所で何してんの?今日は空手部休みでしょ?」

突然現れた、ショートカットの先輩。一応私は初めましてだけれど、一歩引いたところにいる私に気付いているのかいないのか、彼女は毛利さんらと話す。

「…空手部の、人だっけ?」
「あ、あぁ…。前の主将の三年生だな」
「そういえば毛利さん空手部だっけ?」
「あぁ。蘭と仲良くねぇのか?」
「鈴木さんほどでは。というかただのクラスメイト?」
「オイ……」

事実なのだからしょうが無い。鈴木さんとはハロウィンのときに少しだけ話したけれど、毛利さんに至っては幸か不幸かほとんど接点が無かった。最初の頃は私が避けていたとはいえ、ここまで接点が無いというのもなかなかのものではないだろうか。

「ってあれ、もう一人いたんだ」
「あ、はい…」
「そっちは毛利のクラスメイト?」
「そうですね。篠宮呉羽です」
「篠宮…?」

塚本先輩、だっただろうか。彼女に苗字を復唱されて首を傾げる。別に校内では大人しくしているから特別噂になるようなことはしていないと思うけれど、どうだっただろうか。コナン君を見ても同じように首を傾げている辺り、心当たりは無いのだろう。
考えこむ塚本先輩を見て、毛利さんが呉羽さんのこと知ってるんですか?と尋ねた。そのとき、彼女は何かを思い出したように私を指差した。

「あぁ、クラスの男子が話してたんだ!年下なのに年上に見えるって」

そりゃあ君たちよりも実年齢が上だからね、とはさすがに言えないので苦笑いをする。冗談で老けてるってことですか、と尋ねれば落ち着いてるってことじゃない?と返されてまた苦笑いをする。すると、毛利さんと鈴木さんからも確かに呉羽さんって落ち着いてるしお姉さんって感じよね、という声が上がる。正直この会話は胸が痛むものがあるから早急に終わらせたい。

「確かに、呉羽さん落ち着いてるって職員の間でも話になりますよ。勉強も出来ますしね」
「や、勉強は普通です普通」

確かに上位をキープしてはいるけれど優秀な家庭教師がいるからこそだ。特別変なことはしていない。というかそもそもここにいる全員なんで私の話をしているのか。幽霊騒動はどうした。

「私の癒やしはコナン君だけだよ…」
「まぁ俺も大人っぽいとは思ってたけどよ…」
「お前もかよ」

老けてるのか、そうか私は老けているのか。そこら辺の新任の教師より年上だったりするから仕方が無いだろうか。ちょっとこのままこの話題を続けるのはチクチクと来るものがあるし、正直話が進まない。

「あ、それよりも雨降ってきましたね」
「ヤバ…わたし傘持って来てないよ!」
「わたしも…」

内心ガッツポーズをして、外の様子を見る女子三人を見る。外はちらちらと雨が降っていて、そんなに経たずに本降りになるのではないだろうか。

「じゃあ止むまで雨宿りしてる?恨みの図書室で!」
「え?」
「私も丁度そこに行く所だったし…」
「い、行ってみる?」
「もち!」

ちょっと怖がりつつ聞く毛利さんは、本当にお化けとかそういう類が苦手らしい。若干行きたくなさそうにしている彼女を見て、私は思わず苦笑いを浮かべた。

2016.02.06
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