Marguerite

消えたノート

 
「星河さん、救急車と警察呼んでもらっていいですか?」
「あ、あぁ」
「毛利さんと遠山さん、反対側向いて。あまり、見ないほうがいい」

星河さんが救急車と警察を呼びにすぐそこの部屋に入って、女の子二人が反対方向を向いたのを確認して展子さんの前にしゃがみ込む。首元に手を当てて見れば脈はなくて、それどころかもう冷たくなっている。

「何や!?」
「展子さんが大変なの!!」
「頭から血ィ流して、動かへんのや!!」
「駄目だよ。もう冷たくなってる」

私が首を振りながらそう言えば、確認するように服部君が展子さんの首元に触れる。私は死後どれだけ経っているかとかは分からないけれど、服部君は慣れているのか死んでから30分以上経っているとのことだ。

「三人で見つけたの?」
「ううん…星河さんも一緒に…。呉羽ちゃんが救急車と警察呼ぶのお願いして、今そこの部屋に…」

遠山さんがそう行って、星河さんがいる部屋を指差す。二人がそこの部屋に入ったのを見て、私も覗くようにその中を見る。

「おい、見ろよ二人共…」
「ん?」
「えっ、」

ちょっと待って何で今私を呼んだ。そう言いたいのを堪えて続きを聞けば、窓が開いているということ。二人の後ろから窓の外を見れば下は植え込みで、確かにそこをクッションにすれば裏口から簡単に抜け出せれそうだ。

「平次、ちょっと来て…」
「ん?」
「展子さんが倒れてたそばの部屋、えらい事になってんねん…」

遠山さんに言われて、服部君がその部屋へ見る。コナン君も同じようにその部屋を見て、私もそこを覗けば本がいたるところに散らばっている。散らばっている、というよりも荒らされている、の方が近いだろうか。本棚から、本という本が落ちている。

「なーに?この部屋…」
「我らが師匠Mr.正影先生が、世界中を回って集めたマジックの資料庫だよ…」
「中に大事な物とか入ってたんか?」
「いや…ほとんど市販されている本や雑誌の切り抜きで、我々もよく見せてもらっていたから…」
「あるとしたら…妻の私でさえ中を見る事を禁じられたファイル…。奇術師Mr.正影が発案する度に書きつづったオリジナルマジックのネタ帳である『正影ノート』ぐらいだけど…」

正影ノート。その言葉が彼らには引っかかっただろうか。私は考えるように沈黙を貫く彼らを盗み見た。

 + + +

「あれ?服部君じゃないか?いつ東京に?」
「今朝や今朝!夏休み使て東京でやってるマジックショー観に来たんや…」

アホな女のアホなわがままに付き合って、と続けるけれど、そのわがままに付き合ってあげてるんだからお互い様ではないだろうか。本当に嫌なら、断ればいいだろうに。まぁ、今の服部君は自分の気持ちにもイマイチ気付いていないのだろうけれど。

「それにしても珍しいね。呉羽さんがいるなんて」
「たまたま会った服部君に無理矢理連れて来られました」
「人聞きの悪いこと言うなや!お前かて乗り気で調べよったやろ」
「別に乗り気じゃないよ。あの場で毛利さんや遠山さんに死体見せるわけにはいかないでしょ」
「まぁまぁ…」

言い合いを始めそうな雰囲気を読み取ったのだろうか。高木刑事が私と服部君のことを宥めるように言った。まぁ、服部君は本気でも私はあまり本気で言い合いするつもりはないから軽く流すつもりではいるのだけれど。
今更だけれどほぼ初めましてである目暮警部にまさか君も探偵かね、と尋ねられて首を振る。ただの巻き添えになった一般人です、という言葉を付け足して。

「でも、何でこの家に?」
「そのショーで知り合うた奇術師三人の師匠の家がここで、招待されたら、そん中の1人が殺されてしもうたっちゅうわけや!」
「じゃあこの女性も奇術師かい?」
「あぁ…。姫宮展子…。海外じゃ結構有名だったよ…」

展子さんの遺体を確認する高木刑事に、範田さんが告げる。続けて星河さんが今度僕達と組んで三人でショーをやろうという言っていた、と補足するように付け加えた。

「で?死体を見つけたのは?」
「僕と彼女たちの四人です…」

星河さんが毛利さんと遠山さん、そして私へと視線を向けた。毛利さんが夕食の仕度が出来たから展子さんを呼びに来た、遠山さんがお師匠さんの部屋にいるのじゃないかと言って、と目暮警部に告げる。私はついて来ただけで何かをしたわけでもないし特に付け加えるようなこともないだろう。
探偵が二人もいるのだから、私が特別することもない筈。この家に来る前に電源を落とされた携帯を見て、息を吐いた。

2016.04.23
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