Marguerite

気づかぬ嫉妬


普通に考えたら今回の事件は正影ノートが欲しかった外部犯の仕業に見える。けれど、例外はある。スイッチをいじって停電させた、星河さんが犯人だった場合。停電中に展子さんの死体を引きずり出し、明かりが点く前に遠山さんたちの前に戻ればいい。
服部君がそう言ったけれど、星河さんはそれを否定した。

「だって停電してる間、僕は彼女達に抱きつかれていたから…」
「だ…抱きつかれた?」

何で?と顔をしかめて抱きつかれていたという言葉に反応した二人が声を揃えて言った。いい加減素直になればいいのに、と思うけれど工藤君はともかく服部君はまだまだ無理だろうな、と小さく息を吐く。自分の気持ちさえ、わかっていないのだから。

「な、何でって…」
「く、暗くて怖かったし…」
「ホンマにそれ、この男やったんか?」

疑うように尋ねる服部君に、遠山さんがウソちゃうもん!と言って星河さんの腕に抱きついて見せる。毛利さんも遠山さんに抱きついて、星河さんには犯行が無理だということを遠山さんが言った。が、服部くんはあまり気に食わないらしい。

「あれ、呉羽姉ちゃんは抱きついてなかったの?」
「驚きはしたけど…抱きつくかって聞かれたら別に」

秀一さんなら多分ドサクサに紛れて抱きついてるけど、とは言わないでおく。というか彼ならむしろ自分から引き寄せそう。そういうところ優しいし。
服部君は遠山さんが抱きついていたことがよっぽど気に喰わないのか、ガキやあるまいし、と言って星河さんから腕を引き離す。コナン君は毛利さんが抱きついていなかったこととその服部君の姿にからか笑みを浮かべながら女の子だから、と宥めるように言った。

(大阪組はまだまだ時間がかかりそうだなぁ……)

工藤君と毛利さんも工藤君が告白するのはロンドンでだからその現場を生で見られないのが残念かもしれない。…哀ちゃんがロンドン向かうときにどさくさに紛れて行きたいな、とは思ったけれど。
そんな話をしている間に目暮警部は正影さんに話を聞き始めていた。

「ところで呉羽姉ちゃん、展子さんの遺体最初に見たんだよね?」
「見たよ。脈の確認もしたけど」
「なんか気付いたこととかない?」
「えー…」

一応人前だからか猫を被っているコナン君にそう言われるけれど、果たしてどこまで言っていいのだろうか。何か違和感はあったんだけどね、と考える素振りをしながら言う。正直この事件に私がいる必要性を感じないからあまり助言するつもりはないのだけれど。というか、事件よりも服部君がいつ自分の気持ちに気付くかが気になる。
そのとき、毛利さんが展子さんの遺体を見る前と後で何かが違ったような気がする、と言った。遠山さんもそれと同じようで、二人共首を傾げている。

「何か引っかかる感じはあるけどちょっと思い出せないんだよね。あと、コナン君携帯電源落とした方がいいよ」
「携帯?」
「コナン君というよりは…工藤君、かな」

何言ってんだ、とコナン君が言ったのと同時に、毛利さんが遠山さんと話す中で聞こえた、新一に連絡してみようかな、という言葉。案の定コナン君は電源を切っていないらしく、毛利さんを見ながら焦っている。

「せやったら聞いてみいひん?工藤君めっちゃ賢いし!!」

遠山さんの声が、廊下に響く。同時に、服部君は気に食わないらしく毛利さんからこの携帯預からせてもらうわ、と言って携帯を預かる。そして、工藤君の首根っこと私の腕を掴んで毛利さんたちから少し距離を取る。

「ほんなら事件の真相…聞かせてもらいまひょか―?ごーっつ頭ええ工藤君?」
「真相ならさっきオメーが言ってたじゃねーか…」
「待って、何で私も巻き込まれてるの」
「ついでやついで!お前かて探偵みたいなもんやろ」
「私は過去に一度も探偵を名乗ったことありません」

工藤君を降ろして、服部君がその場にしゃがみ込む。私も工藤君に視線を合わせるようにその場にしゃがんで二人の話を聞き流す。私なんかいなくても、彼らなら真相にたどり着けるだろうに。というか本来ならば私はいないのだから巻き込まないでほしいものだ。
二人の話を整理すれば引っかかるのが第一に犯人がなぜこの日を選んだのか。家の内情を知っていたのなら範田さんが訪ねて来て奥さん1人じゃないことぐらい知っていてもよさそうだ。第二に展子さんが殺されたときに飛んだ血。殴られたのは廊下か資料庫の中なのにどこにも落ちていない。

「第三に…」
「え?まだあんのか?」

私は先を知っているだけに口角が上がりそうになるのを必死でこらえる。工藤君が何かあっただろうか、と聞いたけれど、事件とは無関係な遠山さんの名前を服部君は述べた。

「なんや知らんけど引っかかんねん…。チャラチャラしたり、ケロケロしたあいつを見てると…イラついて推理に集中でけへんのや…。何でやろ?」
「「はぁ?」」

私と工藤君の声が揃った。知っていても、実際に聞くと言いたくなるのはなぜだろうか。至って真面目に訊く目の前の男がその気持ちに気付くのは、いつのことだろうか。

2016.05.03
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