*時間軸は高校1年生の夏辺り
「…夏祭り?」
何故そんなことを、というような顔で私を見る赤井さん。まるでお前はそんなこと興味あったのか、と言うようだ。
…あまり人混みが得意ではないのは認めよう。ただし私にはどうしてもしたいことがあるのだ。背に腹は代えられない。
「近所であるみたいなんですよ。…行きませんか?」
「夏祭り、な……」
正直赤井さんがあまり大勢の前に出ることに抵抗があることを知っているし、人混みがあまり好きではないのも知っている。けれども。
私は赤井さんの浴衣が見たいのだ。私欲だって言われたっていい。あの赤井さんが、浴衣を着るというのなら。私だって付き合って着るつもりだ。
+ + +
あの後。あまり乗り気ではない赤井さんを押すに押して浴衣を着てもらった。嫌そうな顔をしていたけれど見なかったことにしたのは言うまでもない。もちろん赤井さんだけ浴衣なのは可哀想というか見栄え的にどうなのと思い私も着ている。
「あ、赤井さん!私りんご飴食べたいですりんご飴!」
「夕飯食べれるのか?」
「頑張ります!」
どうせ屋台に来たのだから定番のりんご飴が食べたくなったけれど、よく考えたらりんご飴は食べるのに時間がかかるだろうし最後にした方がいいだろうか…。どうせなら他の屋台も食べたいし悩みどころだ。
「…うーん、でも食べるの時間かかるので後に回します」
「そうか」
「あ、でも!射的して下さいよ!赤井さんの狙撃を生で見れることなんてないんですし」
私が嫌がる赤井さんを無理矢理夏祭りに連れてきた理由その2。赤井さんの射的が見たい。
屋台にある射的は小さいお菓子からゲームやぬいぐるみなど、それなりのものもある。私がしても絶対無理なことは分かりきっているので、どうせなら赤井さんにしてみてもらいたいのだ。
短距離の狙撃についてはFBIよりも日本警察の方が優秀だということを言っていたような気もするけれどそれは知らないフリをしておくことにする。
「そもそも、こんな街中の祭りに射的なんて…」
「ありますよ?」
ないだろう、と言おうとしたであろう赤井さんの言葉を遮りながらにっこりと見上げる。私だって射的があるかわからないのにそんな発言をするつもりはない。ここの祭りに射的がある、というのは下調べ済みだ。昨日の夕方、まだ赤井さんが私の家に来る前にここに来て射的の屋台があった。ちゃんと屋台のおじさんにも聞いて確認もしている。
「先にやります?後にやります?」
自分でもわかるぐらいこれ以上ない笑みを浮かべて、赤井さんに問う。赤井さんは頭を抱えながら大きく息を吐いた。
+ + +
「あ、あった!コレですよ赤井さん!」
「そんなに走るな、屋台は逃げないだろう」
小走りをしながら、屋台の前に立つ。並ぶ景品はお菓子やゲーム類、ぬいぐるみなどが鎮座している。挑戦している人がいるものの、中々難しいようで手こずっているようだ。
「お、嬢ちゃん来たねぇ!」
「来ちゃいましたー!サービスして下さいよ?」
「ハハッ、嬢ちゃんがするやつにはサービスしてやらぁ!」
私に話しかけてきたのは、屋台の中にいた強面のオジ様だ。色黒の髭面で頭に白いタオルを巻いていて、いわゆる屋台のオジサンっていう感じだ。けれど怖いのは見た目だけでなかなかにフレンドリーである。
「赤井さん、頑張ってね?」
はぁ、と赤井さんは諦めたように銃を手に取る。はてさて今日で赤井さんのため息は合計何回になるのだろうか。今からでも数えるのは悪くないかもしれない、と思いつつ赤井さんがお金を支払い銃を確かめるように見ている姿を見る。
「何か、欲しいのはあるのか?」
「銃構える赤井さんの姿が見られたらそれだけで満足です」
「……………」
赤井さんが何か言いたそうに見ているけれど笑って誤魔化しておく。
景品の台に乗っている台に向けて、赤井さんが銃を構えた。まるで本物の銃のように構えるその姿は、とても綺麗なものだった。
+ + +
「コレ、ホントに貰っていいんですか?」
「ホォー…お前はソレを俺に持って帰れと?」
「ある意味見てみたいです」
「………………」
腕の中にあるのは、真っ白なうさぎのぬいぐるみ。うさぎの胴体を片手で抱きしめながら、うさぎの右腕を赤井さんに向けてみる。
思っていた以上に赤井さんに反応はなくて。やばい外した、と思った瞬間。
(う、わぁ……)
ぐしゃり、と頭を撫でられるのと同時だった。自身の鼻梁に、一瞬の温もり。それをしたのは目の前の彼で。
「人が増えてきたな……」
「ソウ、デスネ…」
赤井さんに貰ったうさぎをぎゅっと抱きしめて熱を持つ顔を隠す。ふいに、うさぎを抱きしめる片方の手を取られて。そのまま手を握られて赤井さんは歩き出す。
握られた手は、何故か恋人つなぎで。
掲載期間:2014.07.29〜2014.12.15
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