「それ、バーボンですか?」
「あぁ。飲むか?」
氷とバーボンが入ったグラスをソファーで隣に座る呉羽に向ける。だが、そのグラスを呉羽が手に取ることはなく、俺の肩に頭を乗せるだけで終わった。
「元のとこではたまに飲んでましたけど、今は身体は未成年ですから」
「明日は学校も休みだろう」
「そうなんですけど…」
チラリ、と呉羽がこちらを見る。特別酒に弱いという話は聞いたことがないし、飲めないわけではないのだろう。また、こちらに来てからは彼女が酒を買うこともなかなか難しいことを考えるとここ一年は飲んでいないことは明白。
何をそんなに渋るのかと顔を覗けば、両の手で頬を覆って顔を隠しながら再度こちらを見る。
「酔って変なことをしても、笑わないでくれます?」
「……善処しよう」
そんなに恥ずかしいことにでもなるというのだろうか。グラスを取りに向かった彼女を見ながら、バーボンのボトルを開けた。
+ + +
やはり、彼女は特別お酒が弱いわけではないようで。ウィスキーをロックで飲み進めていくペースはゆっくりだがそれなりの杯数にはなっていた。
だが、徐々にではあるがソレは訪れていたのだろう。素面のときと比べたら、今の彼女の姿は面白いものがある。
グラスをテーブルに置き、甘えるように俺の顔を覗き込む。軽く頭を撫でてやれば、嬉しそうに頬を赤らめて笑う。
「ねぇ、ちゅー、したいな?」
「……随分と、甘えるな」
普段なら、呉羽がそんなこと言ってくることはないだろう。酔った上での可愛い我が儘を断る理由もない。軽くキスをしてやれば、その軽さに不満だったのか唇を尖らせる。
俺がテーブルにグラスを置くのを見計らっていたように、呉羽は俺の足を跨がるようにして体面するように座り、両手で俺の頬に触れる。
「もっと熱いのがいい」
眉を下げて、甘い声で誘うように呟く。笑うな、と言っていたのはこのことなのだろう。人に甘える、この動作。
「……だめ?」
返事をしない俺に痺れを切らしたのだろうか。首を傾げて随分と可愛らしくおねだりをする。自身の口角が上がるのが分かった。
上目使いで見上げる呉羽に、噛み付くように口付ける。
「んっ…ぁ、ふ…っ、あ…」
いつもより積極的に差し出してくる舌を絡めとり、口内を犯していく。呉羽の後頭部を手で押さえて逃げられないようにしてやれば、逃げるつもりはないと言わんばかりに腕を首に絡ませてきた。
何度か角度を変えつつ舌を絡ませ離してやれば、呉羽は頬を紅潮させて笑いながら『……終わり?』だなんて、俺を男だと思っていないのだろうかと聞きたくなるような言葉を放つ。確かに、このまま抱いてしまうことなんて簡単だ。だが。
(酔った勢い、というのもな……)
彼女に、触れたくないわけじゃない。今以上に触れたいと思うのは、男なら仕方がないことだ。触れて、全て自分のものにしたいと思う。
「あまり、お預けは得意じゃないんだがな」
「……秀一さんなら、何してもいいのに」
「ホー…」
俺の服を掴みながら寄りかかり、呟いた。ぽすり、と胸元に置かれた頭を撫でれば、案の定擦り寄ってくる。その動作に可愛らしいと思う反面、どうにも彼女は状況を理解していないように思える。
俺からすれば、簡単に襲うことも可能だというのに。
「あまり私に手を出さないのは、未成年だからですか?」
服を掴む手を背中へと移動させ、離されることを拒むかのように抱きつく。その身体を引き寄せて抱き締める俺は、つくづく彼女に甘いのだろう。
「酔ってないときに、同じ言葉を聞きたいものだな」
「酔ってないもん……」
酔っ払いの酔ってない程、宛てにならない言葉はないだろう。すり寄ってくる彼女を横抱きにして、寝室に向かう。今の彼女を抱くつもりはない。寝かせてしまうだけだ。
「酔ってないときになら、いくらでも構ってやる」
「…ほんと?」
「……仕事が忙しくないときなら、な」
俺の言葉に『忙しくないときなんて、暫くはないくせに…』と唇を尖らせる彼女の機嫌を取るように軽くキスをする。けれども今の彼女は軽いキスなんてものでは納得しないらしい。
彼女の部屋のベッドに降ろそうと彼女を寝かせても首に回して腕を離そうとしない辺り、まだ甘えたりないのだろう。諦めて再度呉羽に馬乗りになってキスをしてやる。
「んぅっ……」
薄く開いていた唇から舌を入れ、先程よりも激しく絡ませる。呼吸することさえも忘れさせるように、強弱をつけて。
「っ…あ、んん、っあ、」
苦しいのか、首に絡ませていた腕を離して肩を押してくる。が、それは俺からすれば些細なもので、肩を押してくる両手のうちの右手を取り、指を絡ませる。
彼女の身体が強張り、呼吸がギリギリであろうタイミングで口を離してやれば酸素を取り入れるかのように肩で息をする。数回大きく息を吐いたのを見て、再度キスをしてやれば彼女は涙目で、絡ませている手を強く握ってくる。
「っ、んんっ…ふ、ぁ……」
どちらのものとも言えない唾液を絡ませて、開いている手を服の裾から入れれば呉羽の身体がビクリと揺れる。
(簡単に、折れそうだな……)
自分のものとは違う細身のその腰は、いとも簡単に折れてしまいそうだ。日本人の女の身体というものは華奢で、見慣れた肉付きのいいアメリカの女との差にどうも戸惑いを感じる。
腰から腹部のラインを下から上へとなぞるように触れてやれば、その動きに合わせて彼女の動きは強張る。
「や、ぁん…しゅ、いちさ……」
「……どうした?」
「頭、くらくらする……」
「酸欠、だな」
それを狙っていた、とは言わないのだが。荒い呼吸をする彼女の横に転がり、引き寄せて心音を聞かせるようにしてやりながら腕枕をする。控えめに抱き付くのは、既にアルコールが抜けかけているのだろうか。
呼吸を落ち着かせる為に一定のリズムで背中を叩いてやる。アルコールが入っていたことと、少し疲れさせたこと、軽い酸欠になったこと。全てが重なったからだろう。彼女からは規則的な呼吸が聞こえてくる。
(……少し、遊びすぎたな)
自分は男で、恋慕う相手にあんなことをして"反応"しないわけじゃない。だが、だからと言ってそう簡単に彼女を抱くのかとなれば話は別だ。抱きたいが壊したくない、という葛藤が、自身の中を渦巻いている。
控えめに服を掴む手をほどいて、ベッドから抜け出る。ひんやりとした廊下を通って、電気が点けられたままだったリビングに戻る。2つのグラスは適当に流しに置いて、電気を消す。そのままベランダに出れば、外の冷気が身を包む。頭を冷やすには、調度いいものだった。
2015.02.18
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