Marguerite

遅めのティータイム

*2015年ホワイトデー
*沖矢さんバージョン

「校門の前のところにいるの、沖矢さんじゃない?」
「あれ、ホントだ。何かあったのかな…」

窓際で話すのは、鈴木さんと毛利さん。沖矢さん、という名前に私がピクリと反応してしまった。

(……すっごく嫌な予感がする)

二人の言葉を少し離れた席で聞いたとき。嫌な予感が過ったのと私の制服のポケットにある携帯が震えるのは、ほぼ同時だった。放課後ではあるけれど校舎内にいるのだからメールだろう、と予想して携帯を開けば予想通りで。ディスプレイに表示される名前は沖矢さんなのに文面は秀一さんというちょっと笑えたのはここだけの秘密である。
無造作にポケットに携帯を入れて、終礼の終わった教室を後にする。急ぎ足で下駄箱に向かい、靴に履き替える。そのまま小走りで沖矢さんの元に向かえば、私に気付いた沖矢さんがフッ、と笑う。

「突然何事ですか、沖矢さん」
「ホワイトデーでしょう、今日は」
「まぁ世間一般的にはそうですね」

最も、バレンタインのときと違ってあまり盛り上がりはないのだけれど。
そのとき、沖矢さんに『掌、出して貰えますか?』と言われたので言われるがまま沖矢さんに掌を差し出す。すると、差し出した両方の掌の上に、小さくて淡いピンク色の紙袋が置かれる。造花やリボン等で可愛らしくラッピングされたそれは確実に女性向けにラッピングされたものだ。
何故いきなりコレを渡されたのか理解出来ず、沖矢さんを見上げて首を傾げる。

「どうしたんですか?コレ」
「たった今ホワイトデーの話をしていたでしょう…」

半ば呆れたような沖矢さんの声。紙袋のスキマから中を覗きこめば、中にはこれまた可愛くラッピングされた箱。うん、可愛い。

「バレンタインでは感謝の気持ちを込めて相手に渡す、ということをするでしょう?ホワイトデーにも同じ意味があってもいいかと思いまして」
「いや、私沖矢さんにバレンタイン渡してないですし」
「言ったでしょう、日頃の感謝の気持ちだと」
「ありがとう、ございます……」

私が紙袋を受け取るのを見ると、沖矢さんがフッ、と笑って私の頭を撫でる。

(秀一さん、なんだなぁ……)

見た目は全然違うけれど、笑い方はやっぱり秀一さんのもので。
この変装をするのは主に有希子さんで、有希子さんが居ないときなどに私がしている。秀一さんは私しかいないときにも練習をするけれど主に有希子さんがいるときにしている。…"沖矢さん"の顔が女性受けがいいのは、有希子さんの趣味だろうかと思ったのは言うまでもない。

「もし時間があるのなら、宜しければ紅茶でも淹れますよ」
「…じゃあ、お願いします」

 + + +

「飲み物は、紅茶で宜しいですか?」
「とびきり美味しくお願いします」

場所は変わって、沖矢さんの住んでいる家。最も、実際は工藤君の家。入る許可は得ているから最近はわりと容赦なく出入りしているのでどこに何があるかは私も慣れたものだ。
見た目は沖矢さんでも、秀一さんに飲み物を淹れてもらうということは多くない。出来れば自分が秀一さんに淹れてあげたいと思っているからか自ら率先して淹れているのだ。

(それにしても可愛い……)

椅子に座って、テーブルに沖矢さんから貰った包みを出す。全体的にピンク系で飾られたソレはとても可愛くて、開けてしまうのが勿体無いぐらいだ。
どうせなら、と携帯を取り出して写真をとっているとふいに後ろから頭を撫でられる。

「随分と楽しそうだな」
「っ!」

たまにしか聞くことが出来なくなった声に、思わず肩が揺れる。どうやら変声機のスイッチを切ったらしく、声は確かに秀一さんのものだ。

「コレは、秀一さんからですか?」
「いや、"沖矢"からだ。俺からは別にある」
「じゃあ、ちゃんと秀一さんからお願いしますね」

携帯で撮った写真を確認しながら後ろに立つ秀一さんに顔を合わせないまま言った。秀一さんの声を聞きながら沖矢さんの顔を見る、というのはなかなか慣れなくて。変声機のスイッチを切るならどうせなら秀一さんの顔を見たくなる。我慢、出来なくなる。
秀一さんはあぁ、と短く答えてまた変声機のスイッチを入れた。

「もう少し待ってて下さい、今から紅茶を淹れますから」

2015.03.20
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