*赤井さんバージョン
「そろそろ家に戻ろうかなー」
背伸びをしながら呟いた。外を見れば暗くなりかけている。冬の空は一気に日が落ちるから、暗くなりかけていると思ったときには遅いぐらいだ。
沖矢さんが淹れてくれた紅茶のカップをまとめようとすると、目の前に座っていた沖矢さんが首を傾げる。
「帰られるんですか?」
「まぁ、出入りの許可は出ているけど流石に泊まるのはね。工藤夫妻も気にしてはないみたいだけど…」
空いた部屋は好きに使っていいから、と言われたけれどさすがに悪い気がする。工藤君か有希子さん、優作さんといった工藤家の人がいるときならまだしも、持ち主が誰もいないのに泊まるのも如何なものか。いや、沖矢さんは泊まっているけれども。
「そうですか、それは残念ですね。今日は変装を解こうと思っていたんですけど」
「泊まる」
「はい?」
「明日休みだし…。秀一さんに会えるんなら、泊まりたい、です」
「…分かりました。じゃあ、先に貴方の荷物を取りに行きましょうか」
+ + +
「……あまり、珍しいものでもないだろう」
苦虫をかみつぶしたような顔をしてリビングの入り口に立つ秀一さん。一旦私の家に行って着替えなどの荷物をまとめた後、戻って来てすぐに変装を解いてくれた。まじまじと見られるのは流石に心地が悪かったのだろうか。
ちなみに余談だけれども有希子さんに私が泊まることは私の家に行く途中に連絡済みである。
「前よりかは、会えないですし…」
「…呉羽」
ぎゅっと服の裾を握っていた手に一度だけ視線を向けられて、少しだけ口角を上げた秀一さんは両手を広げて私の名前を呼ぶ。その動作が何を意味するのかは簡単で、おいで、と言っている。私が秀一さんに真正面から抱き付けば、秀一さんもそれに返すように私を抱き締める。
"秀一さん"に会えなかった時間を埋めるように、強く。
「沖矢のときには、出来ないからな」
そう。"秀一さん"が"沖矢さん"のときには、"恋人"として触れないことにしている。頭を撫でるなどの兄妹としてするような行動は良いけれど、手を繋いだりハグ、キスやそれ以上のことは、一切無し。
一度はハグをしてみたのだけれど何かが違う気がして、思いきり抱き付くことが出来なかったのだ。秀一さんもそれは同じようで、私にキスをしようとして止めた。私の目に映るのが自分の顔じゃないことが、嫌なんだとか。
沖矢さんと遊びに行くことがあっても、あくまで友人間としての外出で。手を繋いだりすることは無いに等しい。
「触れても、いいか?」
秀一さんの言葉に、パッと顔を上げる。その瞬間に秀一さんに頬を持ち上げられて、触れる、というのがキスだということに気付く。頬に熱が集まるのが分かったけれど、私も秀一さんに触れて欲しくて。無言で頷けば、笑みを浮かべられながら口付けられる。
触れるだけのソレも暫く続けていれば息苦しくなるもので、酸素を求める為に口を開けば待っていましたとばかりに絡められる。
「ふっ…ぁ……」
久し振りの感覚に身体がゾクゾクとするのを感じながら、秀一さんの首に腕を回して自ら舌を差し出す。
リビングにいるのだからソファーにでも移動すればいいのに、と微かな理性でそう思うも煩わしくて。与えられる快楽を堪えるように秀一さんに身体を寄せれば、秀一さんもソレに気付いたのか腰を引き寄せる。
刹那、触れあっていた唇が離されて、煽るように背中をなぞりながら首筋に顔を埋められる。
「そこのソファーか、上のベッド。好きな方を選べ」
「ゃ……まだ、シャワー、浴びてない、からっ…ん、」
触れられる手が、服の上から次第に中へと移動していく。首筋に埋められていた顔も、舌を這わせるようにして、胸元へと。
「どちらかだけ、だ」
「っ、ぁ…」
「それとも、このままここに押し倒される方がいいか?」
私に触れる手はそのままに、わざとらしく秀一さんが尋ねる。どうやら秀一さんは私を離すつもりはないらしい。
「上、が…いい」
「…そうか、」
秀一さんが呟くのと同時に、私が横抱きにされる。秀一さんの手によって着崩された服を胸元で掴んで隠すようにすれば、額にキスを落とされる。そのまま器用に扉を開けて、二階にある秀一さんが借りている部屋へと移動する。部屋の中はいつ見ても本当に必要なものしか置いてなくて、どこか殺風景に見えなくもない。
軽く触れるだけのキスをされながら、ベッドに横たわらされる。秀一さんは横たわる私に馬乗りになるようにしたまま、着ている上着とカッターシャツを脱ぎ捨てる。
(なんか、色っぽい……)
がっしりとした体つきではないれど筋肉質なのは、ライフル等を抱えることが多いからなのだろうか。仕事中に付いたものなのか、身体には多くの傷痕。ソレが余計に、秀一さんを色っぽく見せているような気がして、ゾクリと身体が震えるのが分かった。
「どうした?」
「秀一さんの身体、色っぽいなぁって」
「こんな傷だらけの身体が色っぽいなんて言うのは、お前ぐらいだな」
「でも、好きなんだもん。秀一さんの身体」
「身体だけ、か?」
「……意地悪」
なぞるように秀一さんの身体の傷に触れていた手を取られ、指先に口付けられる。そのまま指を絡めとられて、覆いかぶさられる。
「…あまり、加減出来ないからな」
「ん……」
耳元で囁かれる言葉に返すように、秀一さんの手を握りしめた。
+ + +
(……身体が、痛い)
眠りから覚めてまず一番最初に思ったこと。どこが痛い、と聞かれると困るけれども、強いていうならほぼ全身が痛い。この寝室に来たのが、20時ぐらいだっただろうか。結局眠りに落ちたのが何時だったかは分からないけれど、結構な時間離してもらえなかった気がする。いや、確かに加減は出来ないと予告はされていたからいいのだけれど。
(どうせなら当日にお返し貰いたかったんだけどなー…)
私を後ろから抱えるようにして眠る秀一さんを振り返りながら見る。まさかこんなことになるなんて予想していなかったので甘えた私も悪いけれど、やっぱり当日に欲しかったと思うのは欲深いかな。
そんなことを考えながら秀一さんの方を向こうと身体を動かそうとしたとき。
「っ…!?」
指に違和感を覚えてその指を見た瞬間、思わず飛び起きる。右手の薬指に、ひとつのシルバーリング。赤い小さな石が飾られたそれは、昨日の夜には確かにしていなかったもので。昨日のうちにコレをつけられる人はただ一人で。
秀一さんを見れば、私が飛び起きたことで目が覚めたらしく、こちらを見ていた。
「俺からの眺めはいいが……もう少し隠すことをした方がいいんじゃないか?」
「えっ……きゃあ!」
「まぁ、今更な気もするが」
「今更とか無いですよ!」
昨日そのまま寝てしまった私は服を着ていなくて。飛び起きたことでシーツは被っていなくて。秀一さんには、その姿が丸見えなわけで。
慌ててシーツで身体を隠しながら、秀一さんを睨む。起き上がった秀一さんは、上半身は何も着ていないけれども下はちゃんとズボンを穿いていて。恥ずかしい格好をしているのは私だけなのか。
「昨日散々見せてただろう」
「それとこれとは別です!というか昨日は暗かったですし…!」
冗談だ、といいながらシーツに包まったままの私を秀一さんの脚の間に横向きに座らせられる。そのまま右手を取って、シルバーリングにキスを落とした。
「左手でもいいかと思ったが…全てが落ち着いたら、また贈らせてくれ」
「ん、待ってる。そのときは、起きてるときがいいな」
「あぁ」
額に口付けられて、私も甘えるように秀一さんに擦り寄る。そのとき、部屋の外…基、恐らく玄関から扉の開くような音がした。
「今日、もしかして……」
「有希子さんが来るな」
「ちょっ…と待って!服着る!」
「適当に言っておくから、後から降りて来い」
秀一さんは脱ぎ捨てていたカッターシャツを拾い上げてそれを着ながら部屋の外へと出て行く。確かに、秀一さんが有希子さんが来る予定のないのに変装を解くわけがない。迂闊だった、と思いながら慌ててベッドの周りに散らばる服を拾う。
(有希子さんの声がするー……)
とりあえず、と下着を着けながら微かにだが聞こえる相変わらず元気な有希子さんの声に耳を傾ける。何を話しているかわ分からないけれど、恐らく秀一さんと話しているのだろう。もうすぐ沖矢さんに戻っちゃうんだよなぁ、と思いながら服を着ていく。
服を来て有希子さんに挨拶しておこうか、と思うのと同時に、部屋の扉を開く。扉の開けたのは秀一さんで、そこに有希子さんの姿はない。
「有希子さん、リビングですか?」
「いや……夕方に戻るから、と笑顔で去っていった」
「えー……」
本当に嵐のような人だ。呆れたような秀一さんに甘えるように抱きつけば、それに返すように抱き上げられる。
「沖矢さんに戻るのは、有希子さんが戻ってからですか?」
「あぁ、そのつもりだ」
「じゃあ、まだ恋人でいられますね」
子どものように私を抱き上げる秀一さんの額に私の額を合わせて笑えば、秀一さんもフッと笑ってキスをされた。角度を変えて繰り返されるソレに身を委ねていると、そのまま移動してベッドの上に座る。
「え、ちょっ……秀一さん?」
「まだ、恋人でいられるんだろう?」
「いや、そういう意味じゃないっていうか、ですね…!」
「聞こえんな」
私の抵抗も虚しく、再度ベッドに押し倒された。
2015.03.23
back