Marguerite

甘い香りに染まる

 
随分今更なことだけれど、私には名探偵コナンの原作の知識がある。コナンと共に育ってきたと言っても過言ではないぐらいに読み込んでいて、当たり前のように公式ガイドも読んでいる。隅から隅まで熟読していたと言ってもいいぐらいに。ふいに生活する中で思った秀一さんの好みの人ってどんな人なのだろう?ということで思い出したこと。同時に安室さんの好みのタイプも答えていたけれど私からしてそれは正直どうでもいいというか…。とりあえず、それと一緒に載っていた秀一さんの好み。『黙ってても間が持つ人』
どう考えても私はそれから外れているような気がするのは、気のせいなのだろうか。

そこでよくよく考えていると、深く聞いてみたいと思ってしまう好奇心。一応原作で載っていたのは秀一さんが過去に付き合っていた女性はジョディさんと明美さん。明美さんとは最初こそ仕事目的で付き合っていたけれど、好きだったのは事実なわけで。確かに言われてみると明美さんなら黙っていても間が持ちそうだな、と思ったのを覚えている。
じゃあジョディさんが当てはまらないのか?と言われればそんなことはないだろう。むしろ一緒に仕事をしている仲だから当たり前のように黙っていても間が持つ気がする。

(何か悲しくなってきた……)

確かに今恋人なのは私なのだけれど、私はジョディさんみたいにダイナマイトボディなわけでもないし明美さんみたいに大人しい人でもない。むしろ秀一さんが危ないからと自らと引き離そうとしたのに駄々こねるし危ないことをするなと言われているのに派手に動いて怪我をするし…何か本当に秀一さんは私の何が良くて好きになったのかと思うぐらいだ。

「……呉羽、」
「何でしょう」
「視線が痛いんだが」

ダイニングキッチンの椅子に座って、ソファーに座る秀一さんを眺めていたことにどうやら本人は気がついていたらしい。確かにあれだけ凝視して考えていたら気付くか、と思いつつ立ち上がって秀一さんが座る隣に腰を下ろす。少しだけ甘えるように秀一さんに寄りかかれば、彼はなにかあったか?と尋ねながら私の頭を撫でる。どうにも、秀一さんには甘やかされているようだ。

「私、この世界の大まかな未来を知ってるって言いましたよね」
「言ってたな。主に、組織のことだろう」
「その中でまぁわりと突っ込んだ話っていうのもありましてですね」

突っ込んだ話?と秀一さんに問われ、適当に分かりやすいもので真純が乗ってるバイクとか、と言っておく。確かに公式ガイドに載っていたのをなんとなく覚えている。
秀一さんにそれがどうかしたのか、とあまり興味がなさそうに聞かれて。正直今言いたいのは真純のバイクのことなんかじゃない。さっきまで考えていた、秀一さんの好みについてだ。頭を撫でるここちの良い手を感じながら、秀一さんの好みの女性についても知ってるんですよね、と言えばその動きが止まった。

「『黙ってても間が持つ人』、ってなってたんですけど…合ってます?」

秀一さんの顔を見れば、ため息をつきながら私の頭を撫でるのとは逆の手で自身の顔を隠す。そのまま視線を合わせないまま、間違ってはいないな、とだけ返された。
中身はともかく私の身体は秀一さんとは少しばかり離れていて、何となく気に食わなくて秀一さんに抱きつけば、再び頭を撫でる手が動き始めた。

「間違ってはないが…少し語弊がある気もするな」
「何ですか語弊って」
「あまり俺がお喋りじゃないのは知っているだろう」
「…ペラペラ喋られても困るっていうか」

むしろそんな安室さんみたいにいろいろと話しかけられても正直ちょっと想像が出来なくて鳥肌が立ちそうだ。
そんな想像をしていると、ふわりと秀一さんに抱き上げられて膝の上に座らされる。

「ただ黙って傍にいればいいってものでもない。それに、俺は女心というものがよく分からないからな…余計に、無闇矢鱈に話しかけられても困るというか…」
「私結構話しかけてると思いますけど…」
「女独特の面倒臭さがないだろう」
「構ってくれなきゃふてくされますけど」

後ろから抱きしめるように回された腕を感じながら、秀一さんに寄りかかる。ぷいっ、と顔を横に向ければ、頭を撫でられる。
何だかここまでくると少しだけ意地になっていて、我ながら可愛くないと思いつつ素直になりきれない自分の性格に内心苦笑する。

「お前は、甘えるのが下手だな」
「……自覚は、ありますけど」

甘えるのが下手な、自覚はある。なんとなく、邪魔にならないかとか迷惑じゃないかとかそういうことばかり考えてしまうのはもう性格ではないだろうか。
手を差し伸べられないと、甘えるのが怖い。

「別に好みだから好きになるわけでもないだろう」
「…1つ、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「秀一さんは、私のどこを好きになったんですか?」

スタイルが良いわけでもなければ、大人しくもないですよ。そう言えば、勘の良い彼はその言葉が何を示しているかに気付いたらしく後ろから強く抱き締められる。
秀一さんは面倒なことを言わない、と言っていたけれど、現在進行形で言っているという矛盾にどう思っているのだろうか。

「気付いたら、好きになってたな」
「そうなんですか?」
「あぁ。だから、全部なんだろうな」

一緒に住んでいても、嫌だと思ったことがない。サラッとすごい口説き文句を言う秀一さんに今度は私が顔を隠す。そうやって秀一さんが私を甘やかすから、私はまた秀一さんに溺れるんだ。
秀一さんは私が顔を隠していることに気付いたのか、その手を退けて視線を合わせさせる為に上を向かせられる。

「それとも、俺の言葉は信用出来ないか?」

フッ、と笑いながら秀一さんに尋ねられる。そう言われたらもう何も返せなくて、顔に熱が集まるのを感じながら私はフルフルと首を横に振る。その様子に満足したらしく、そのまま上から軽くキスを落とされた。

「安心しろ。もし仮にどちらかからまた付き合いたいと言われても、お前がいる以上そんなことはしない」

リップ音がするように秀一さんにキスをされて身動けば、器用にキスをしたまま身体の向きを横向きへと変えられる。横向きの方が、よりキスをしやすいからなのだろうか。
啄むように繰り返されるソレを受け入れていると、手を取られて指を絡められる。

「っ…んん、」

するりと口内に秀一さんの舌が侵入して、慣れたように私の舌に絡ませて。何度しても慣れないゾクゾクとする感覚に秀一さんの服を掴むと、唇は離されて額にキスを落とされる。

「お前は、俺からすればそのままで十分だ」

どうも、私は秀一さんには敵いそうにない。

2015.04.28
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