Marguerite

同じ日付の中で


13日の金曜日。元々はキリストの最後の晩餐に13人いて、そのキリストのが金曜日に処刑されたとかそういうことからきているものだっただろうか。
正直な話、不吉なものとして忌み嫌われていることは知っているけれども起源なんてものは気にしたことがないからうろ覚えだ。言ってみれば英語圏での迷信なようなものだろう。

(秀一さん、遅いなぁ……)

ホテルに泊まるときはこの家を出るときに言うし、そもそも事前に聞いていることが多い。秀一さんの主な予定が書かれたカレンダーを見ても今日のところは何も書かれていない。
あまりにも遅くなるときには分かったときに連絡を入れてくれるから、こういうことは今まで殆ど無かった。ここまで気になるのは、日付と曜日のせいだろうか。

近くにあったクッションを抱いて、何かあったら分かるようにとテレビを点けた。

 + + +

「……呉羽、」

名前を、呼ばれた。聞きなれた、心地のいい低い声。いつの間にか秀一さんは帰ってきていたらしく、私の頭を撫でながらもう一度名前を呼んだ。

「お帰り、なさい」
「ベッドで寝ないと、冷えるだろう」
「んー……」

ソファーの肘置きに腰かける秀一さんの背中に抱き着く。一瞬秀一さんの動きが止まったけれど、フッ、と笑いながらまた私の頭を撫でた。

「寂しかったか?」
「少し、」
「そうか」

俺は、真正面から抱きしめたいんだがな。髪を梳きながら、秀一さんがそんなことを言った。
私が抱き着いていた腕の力を緩めれば、秀一さんが私を引き寄せた。そのまま一度抱き上げて、ソファーに座った秀一さんと向かい合うように座らされる。

「呉羽、」

名前を呼ばれて、隙間を埋めるように引き寄せて、抱きしめられる。私から秀一さんの頬に触れれば、少しだけ口角を上げてキスをされる。私を甘やかすように、唇だったり、頬だったり。

「秀一、さん、」
「……まだ、俺は足りないんだが」
「っ……その、恥ずかしい、です」

秀一さんの胸元に顔を埋めて、小さく告げる。何度も何度も繰り返される口付けの間も、秀一さんは目を閉じてはくれない。私の表情を確認するように、私の顔を見ながらキスをする。私が目を開ければ視線が交わって、それが、たまらなく恥ずかしいのだ。

「俺しか、見ていないだろう」
「そう、ですけど」

それでも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
秀一さんは私の意見なんて聞くつもりはないとでも言うようにまた私にキスをする。より深く、熱っぽく。

「…ぁ、ん……ふ、」
「呉羽……」

秀一さんの服を、強く握る。同時に、私の背中がゾクゾクとする。熱っぽく、艶やかな口付けに、私の身体が熱を帯びていくのだ。

「っ、んん……」

離れることを名残惜しむように秀一さんが私の唇を舐める。私のことを抱き締める腕の力を強めて、足りないと言うように舌を首筋這わせた。

「ぁ……ゃ、駄目…」

背中が、ゾクリと震える。確かに時間は遅いけれど、まだご飯も食べてなければお風呂にだって入っていない。せめて、お風呂にぐらいは入りたい。
そんな私の気持ちとは裏腹に秀一さんは首に痕をつけていく。

「秀一さん、」
「…何だ?」
「ん……せめて、シャワー浴びたい、です」
「…………」

秀一さんが、私の言葉を考えるように胸元に顔を埋める。腕の力を弱めない辺り、秀一さんなりのささやかな抵抗なのだろうか。
私が秀一さんの頭を撫でれば、秀一さんの腕の力がさらに強くなって。顔を上げて、ジッと私の顔を見る。

「秀一さん?」
「たまには、一緒に入るか」
「は!?」

多分、私の聞き返すその言葉は本気の声だっただろう。不可抗力で身体を見られてしまったことや、そういうことをして身体を見られたことはある。でも、前者は明るかったけれど一瞬だったし後者は暗いときにしかしていない。明るいところでちゃんと見られたことは、ない。

「……嫌か?」

秀一さんは、私を抱き締める腕の力を強めながら言った。ジッと、私を見ながら。甘えるように。

「………入浴剤は、入れますからね」
「好きにしろ」

フッ、と笑った秀一さんを見て、結局私は彼に甘いのかと思いつつも仕方がない。恥ずかしさを隠すように、私は秀一さんに抱きついた。

2015.12.02
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