(誰か助けて……)
目の前にいるのは、楽しそうに服を選ぶ工藤君の母。それはもう楽しそうで、止めるのも気が引けるしそもそも彼女のパワフルさには若干ついていけないところがある。
「ねぇ、これなんかどう?」
「工藤さんには似合うとは思いますけど」
「やだぁ、『工藤さん』なんて他人行儀じゃない!有希子で構わないわよぉ!」
「……ソウデスカ」
娘が欲しかった、とは確かに彼女は言っていたけれどもこれは娘がいたら振り回されていたのかもしれない。……性格がどっちに似るかでかなり別れただろうけれど。既に回っている店は6件目で、普段そんな一度にいろんな店に行ったりすることの少ない私のライフはゼロに近い。
あのとき工藤君の家に行こうなんて思わなければよかったんだ、と過去の自分を思い出していた。
+ + +
学生ならではの当たり前のようにある土日休み。赤井さんは暫くホテルを点々とする、とのことであまり凝った料理も作りにくい。
(久しぶりにカメラ持って散歩でもしようか……)
私はカメラバッグからカメラを取り出し、出かける準備をする。と言ってもただの散歩なのでカメラと財布、携帯だけを肩がけのバッグに突っ込む。ついでに工藤君の家に寄って読み終えた小説を返してしまおう。
そう思って借りていた小説を手頃な紙袋に入れ、私は家を後にする。
荷物になるので先に工藤君の家に寄ってから散歩に勤しむことにしよう。
そう考えて工藤君の家を目指す。私の家と工藤君の家はそこまで遠くはない。余裕で徒歩圏内だ。携帯で連絡を取ることなく訪ねることになるが、工藤君がいなければ郵便受けに入れておいていいと前に言われている。工藤君がいなくてもなんとかなるだろう。
暫く歩いて、工藤君の家の前に着いた。何も言わずにただ郵便受けに入れるのも申し訳ないし、中にいるかもしれない。とりあえず、と思い私は呼び鈴を鳴らす。
(相変わらず、大きい家だ)
呼び鈴を鳴らしながら工藤君の家を見上げる。隣の阿笠博士の家も大きいが、工藤君の家はそれよりも大きい。あれだけ本があるのだから仕方ないのだろうか。
バタバタと足音が聞こえてきて、工藤君いたんだーと思ったのもつかの間。中から出てきたのは生で見ると子持ちとは思えない女性。工藤くんの、母親だった。
「あら、新ちゃんのお友達?」
「え…と…。クラスメイトで、工藤君に本をお借りしてて、ですね」
今まで工藤君の家には学校の帰りに寄っていたし、そもそも工藤君の両親には会ったことがない。当然のように心構えもしていなかった私は、どうしていいかわからずにしどろもどろになってしまっていた。
「新ちゃんなら優作と出ててちょっと夕方まで帰ってこないのよねー…」
「あ、大丈夫です!コレさえ渡して頂けたら…」
「…ねぇ、貴方名前は?」
紙袋を工藤さんに渡そうと差し出したけれど、彼女は何かを考えるように私の差し出した紙袋を見た。そしてにっこりと笑いながら私の顔を見た。
彼女の意図はわからないけれど、とりあえず私は彼女の質問に答えるべく口を開いた。
「篠宮呉羽、ですけど…」
「呉羽ちゃんね?私ちょうど暇してたのよ!もしよかったら買い物に付き合ってくれない?」
「え、え!?」
私の手をがっしりと掴んで、目の前の女性はそう言った。断ろうにも、彼女のオーラを見る限りどう見ても返事は『イエスorはい』だ。
「ね、いいでしょう?そうとなったら出かけましょ!」
彼女は有無をいわさずに、私の腕を掴んで車へと乗せた。
+ + +
(どうしてあのとき断らなかったかなー…)
楽しげに服を選んでいる工藤さん…もとい有希子さんを止める術を私は持っていない。とりあえずは楽しそうだしいいか、と私は遠巻きに見ていることにした。
2014.07.20
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