Marguerite

善じゃなくても速達便

 
ひと通り買い物を済ませて、有希子さんに連れられてデパート内にある和食を中心とする飲食店に訪れていた。ちなみに、大量に買われた服やら鞄やらは自宅に送ってもらったようだ。会ってまだ数時間しか経っていないというのにこの体力の使い方は中々すごいものだと思う。

「ねぇ呉羽ちゃん、ずっと気になってたこといいかしら?」
「はい?」

運ばれてきた定食を食べながら、目の前に座る有希子さんが問う。…ちょっと嫌な予感がするけれど、ないがしろにするわけにはいかないので聞いておくことにしよう。

「将来、うちの新ちゃんとどう?」
「……は!?」

突然の言葉に、思わず私は大きな声で聞き返した。『えー、駄目かしらぁ?』なんて言う有希子さんは可愛らしいけれど、それとこれとは別だ。

(え、なんて言った!?将来、新ちゃんとどう?って言ったよね!?それって私の勘違いではなければ嫁に来ないかってことだよね!?)

焦る心を落ち着かせるように、お茶を流し込む。そもそも工藤君には毛利さんがいて。私は原作を極力壊したくないのだ。……今赤井さんはどうなのって言った人は挙手しようか。

「まぁ優作に似て推理マニアというか、そういうところあるものねー」
「工藤先生の小説は、私も好きですけど…」
「あら、そうなの?じゃあ今度は優作にも会いましょうか!」

あ、私詰んだ。逃げられないはこれは。
自分の言った言葉に後悔をしながらニコニコと話を進める。そこでふと、有希子さんが変装術に長けていることを思い出した。アレは常々教わりたいと思っていたものだ。適当に工藤君に聞いたことにして訊いてみようと私は口を開く。

「そういえば工藤君に聞いたんですけど…有希子さん、人を変装させるのが上手いって本当ですか?」
「あら、新ちゃんに?」
「はい。雑談からの流れで少し聞いただけなんですけど…」
「じゃあ、やってみる?」
「へ?」

にっこりと、簡単に出来ますとでも言うように有希子さんは言った。有希子さんは携帯を取り出し、どこかに電話をかけているようだ。

(嫌な予感がする…)

私の中の何かが逃げろと言っている気がする。けれどここで逃げる勇気なんて私にはないわけでして。あぁ、電話してるのは工藤君か。どうやら家に戻っているようで。
心の中で工藤君に合掌しながら、有希子さんの電話が終わるのを待つ。何やら工藤君が有希子さんに言っているようだけれど、有希子さんは気にする様子もなく話を終わらせる。

「さ、行きましょうか!」
「えっ……どこに!?」

注文票を取り、会計をしようとしながら有希子さんは言い放つ。私の疑問は何も間違っていないはず。カードで手早く会計を済ませ、私は有希子さんに腕を掴まれて店外に出る。

「有希子さん、私の会計っ…!」
「いいわよぉ、買い物に付き合って貰っちゃったし!じゃあ帰りましょうか」
「いやだからどこに!?」
「え、私の家だけど?」

さも当たり前、という顔をする目の前の彼女をどうしようか。どうもすることは出来ないのだけれど。鼻歌を歌いながら、有希子さんは車に向かう。

「善は急げって言うじゃない?早速家に帰って変装の練習しましょ?」
「教えて貰えるのは嬉しいですけど今はそういう場合じゃないと思うんですけど…!」
「あら、優作に気兼ねしてるの?大丈夫!締切終わったばっかりで機嫌いいから」

『ほら乗って乗って!』と有希子さんに助手席に乗るように促されたので渋々助手席に乗ることにする。デパートに行くときもなかなかの運転だったが、今の運転はソレ以上に荒い。とりあえず警察に捕まらないことと自分の舌を噛まないことを祈りながら、車のアシストグリップを握りしめた。

2014.08.06
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