Marguerite

甘さに溺れてしまえ

*2016年バレンタイン

日曜日だけれど、秀一さんがお仕事に行った。それは仕方がないことだし、いつも通り笑顔で見送った。けれど、どちらかというと今日は秀一さんの方が申し訳なさそうにしていたことが、頭に引っかかっていた。

(今日って何かあったっけ…?)

カレンダーを見て、日付を確認する。14日、日曜日。2月の、14日。そこまで見て、私の動きが止まる。何で忘れてたかな。何で忘れられたかな。バレンタインというものが今日であることに、私は頭を抱えた。

 + + +

「お帰りなさい」
「あぁ、ただいま」

ちゅ、と音を立てて、頬に口づけれられる。お仕事から帰ったときにされるこの行為が嬉しくて、私は少しだけ頬を緩める。

「ご飯にします?お風呂にします?それとも、」
「?」
「わ、私、とか……」

絞り出すような私の声に、秀一さんの動きが止まる。元の世界だとベッタベタな台詞だったけれど、こっちの世界ではどうなのだろうか。言ったはいいけれど思ったより恥ずかしくて、思わず秀一さんから目をそらす。すると、秀一さんが私の腕を掴んで引き寄せてキスをした。

「んっ…ぁ、んん、」

熱を帯びた、口付け。何度も角度を変えて繰り返されるソレに、思わず秀一さんの服を握る。

「それは、こういうことでいいんだな?」

確認するような秀一さんの言葉に、私はただコクコクと頷く。フッ、と秀一さんが口角を上げて、私の脇の下に手を入れて抱えあげる。そのまま随分と慣れた手付きで寝室まで向かって、ベッドへと横たわる。

「あ、あのっ……」
「どうした?」
「ごめんなさい!!」

私の言葉に、秀一さんの動きが止まる。生理中か、なんて、平然としながら私に尋ねる秀一さんに首を横に降る。

「あの、私バレンタインのにチョコの用意すっかり忘れてて……だからもうプレゼントは私みたいなことするしかないかなって……!や、でもプレゼントになるからには秀一さんが望むなら縛ってもいいし目隠ししてもいいし口でしてもいいしなんなら胸で挟んでみるとか」
「落ち着け」
「ハイ…」

恥ずかしさのあまり一気に捲し立てた私とは対照的に、秀一さんは苦笑いをしながら私を見る。

「別に、チョコは無いなら無いでいい」
「うっ……」
「いや、あると嬉しいには嬉しいが……。向こうだと男があげる方だから、貰う方が慣れなくてな、」
「そういえば、去年も私貰いましたね……?」
「……忘れてたのか」

やけに可愛くラッピングされたものを渡されたことを、思い出した。もしかして、それで朝少しだけ申し訳無さそうに仕事に言ったのだろうか。そう思って秀一さんに尋ねれば、悪いか、と少しだけ照れたように視線を逸す。

「それに、去年は当日にいてやれなかったからな」
「あ……」

確かに、去年はバレンタイン当日にチョコを渡せなかった。当日から少し経ってから渡した気がする。それも、私の食べかけを。

「まぁ、貰えるなら貰うぞ。呉羽を、な」
「て、手加減はしてください……」
「気絶、するなよ」

私の言葉を聞いているのか聞いていないのか。フッ、と笑いながら私の唇は秀一さんによって塞がれた。

2016.02.14
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