*同期の女性視点
「ウザイ」
バシッ、と手に持っていたファイルで座っている男の頭を叩く。我ながらいい音が出たと思う。本人的には隠しているつもりなのかもしれないが、周りが当たらぬ触らぬをしているのが気付かないのだろうか、この男は。人をも殺せそうな目つきで睨んできたけれど、私からすればこっちの方がお前を殺したいわ、という気分だ。
「いきなり何だ」
「あんまりピリピリしながら仕事をするな。こっちが気使う」
「勝手に使ってろ」
思いの外苛立っているらしい。声がいつもより低い。が、一度話しかけた以上はこっちだって食い下がるつもりなんてない。それに、今年はいいものがある。
「バレンタインだというのに残念だな。去年は何も考えずに仕事をしていたというのに」
「何が言いたい」
「バレンタイン、それも日曜日で普通なら可愛い可愛い彼女と一緒にいたかっただろうになぁと思ってただけだ」
「撃つぞ」
「撃ったら始末書だな」
本気で撃たれるんじゃないかというような顔で、目の前の男は私に拳銃を突き付ける。まぁここで仮に撃ったらコイツは始末書どころの話じゃないだろうし、掃除だって大変だろう。それにこっちだって脳みそパーンは御免だ。
「呉羽ちゃん、だっけか?」
「……どこで聞いた」
「さぁ。にしても可愛いよなぁ。彼女の前だとお前もあんな顔をするのかと私も安心したよ。それに引き換えお前のこの仕事の量」
彼の拳銃の引き金にかけられている人差し指が、わずかに揺れた。安全装置が解除されている辺りそろそろ本気で撃ちぬかれそうだ。多分、撃たないと思いたいが。
「さてここから私の提案。私、ちょっと欲しい物があるんだよね」
「それが俺に何の関係がある?」
「聞いてからでも、遅くはないと思うけど?」
+ + +
「ほら、欲しかったんだろ」
「仕事早いな」
「まぁ、いいことがあったからな」
「…ごちそうさま」
バレンタインから数日が経って、赤井から渡された袋を開けて中身を確認する。高いから自分で買うか悩んでいたものなだけあって買うことを悩んでいたものが出費無く手に入るとは嬉しいものである。
あの日私が出した交換条件は、赤井の仕事を請け負う代わりに今私が貰ったものを赤井が買うことだった。赤井に興味は無いけどコイツの彼女は可愛い。赤井がいないなら私が貰いたいぐらい。そんな彼女が赤井と会えなくて泣かせたくはない。まぁ、バレンタインの翌日は気持ち悪いぐらいに赤井が上機嫌だったから上手くいったのだろうけれど。
(あの様子だと、存分に食べたんだろうな…)
私の携帯に残された隠し撮りの写真。赤井と、その彼女の写真。この写真を使うのはまだ先になるだろうか。私は携帯の画面を消して、無造作に鞄の中に入れた。
2016.02.18
back